北朝鮮で「芸能人スポーツ大会」が開かれた。

日本のバラエティ番組で放送される「芸能人大運動会」や「アイドル水泳大会」のようなノリのイベントかと思いきや、朝鮮語(韓国語)の報道文では「第46回芸能人体育大会」とカタめの表現で銘打っているように、北朝鮮で活躍する芸能人たちの運動会だった。

もちろん、日本のバラエティ番組にありがちな水着タレントによるお色気「アイドル水泳大会」のノリのようなものではなく、同通信も多数の写真とともに「選手たちは、各競技で芸術創作活動の日々に練磨してきたスポーツ技術と集団主義精神、気高い競技道徳品性をよく見せた」と、評している。

北朝鮮で芸能人と言われてもピンとこないかもしれないが、実際にタレント、そしてスターはいる。その代表格といえば、北朝鮮初のガールズグループ「モランボン楽団」だ。

2012年に、金正恩第1書記によって結成された「モランボン楽団」は、既に北朝鮮を代表するアイドル、タレントと言っても過言ではない。今年には、モランボン楽団につづくポップグループとして「チョンボン楽団」が結成されたが、両グループとも金正恩氏の寵愛を受けている。先月、チョンボン楽団の公演をモランボン楽団メンバーと共に観覧する金正恩氏の実に嬉しそうな表情がそれをよく表している。

こうした北朝鮮の芸能人や芸術家は、芸術関連機関や軍隊に所属する国家公務員だ。朝鮮人民軍(北朝鮮軍)所属の芸能人は、日本で言うところの自衛隊音楽隊に所属する演奏者たちといえばわかりやすいだろう。

北朝鮮の芸能人達は、国家公務員だけに一般庶民と比べて待遇的には安定しているが、資本主義国家のようなスターとは違って総じて質素だ。それでも、華やかな世界であることは間違いなく、そのせいか、「芸能人スキャンダル」もちらほら聞こえてくる。

北朝鮮では1980年代から、日本から送られたポルノ映像が、故金正日総書記を核とするエリート層幹部を中心に拡散。なかには北朝鮮の芸能人が出演するポルノ映像も存在したという。

現在、動静が途絶え粛清説も囁かれている北朝鮮指導層の一人である崔龍海(チェ・リョンヘ)氏。この人物は北朝鮮国内でも評判の悪い人物だが、その理由は美貌の芸能人を性の玩具にするなどのスキャンダラスな遍歴があるからだ。

北朝鮮芸能界にはこうした「ウラ事情」に加えて「政治とも無関係ではない」という独特な事情もある。スキャンダルとは縁が無くても自らのパトロン、後見人のような政治家、実力者が失脚や粛清された場合、連座制と見せしめで粛清されることもあるのだ。まさに一寸先は闇だ。

朝鮮中央通信は「芸能人スポーツ大会」を20枚の写真と共に報道した。大会は和気あいあいとした雰囲気に満ちあふれ、参加した芸能人たちも楽しそうな表情を見せている。

しかし、芸能人でさえも思わぬことで天国から地獄へ突き落とされる現実を考えると、複雑な気持ちにならざるをえない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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