北朝鮮は、世界的にも珍しい「国内移動の自由」がない国だ。登録された居住地域の外に出るためには、役場で通行証を発行してもらい、さらに通過する哨所(検問所)で提示する義務がある。道、市、郡の境界線には、人民軍保衛司令部の哨所(10号哨所)と人民保安部(警察)の哨所に加えて山林経営所の山林監督哨所があり、行き来する人や車、物品を二重三重にチェックしている。

そういう状況下で人気を博しているのがソビ車(民営バス)だ。ドライバーがあらかじめ哨所にワイロを掴ませているので、通行証なしでもある程度は通過できる。

軍が警察を袋だたき

さらに信頼度が高いのが人民軍のトラックだ。ソビ車の収益で運営予算を稼ぎたい軍と、商売のために移動したい人々のニーズがマッチして利用者も多い。ところが、軍用車両の営業行為いわば軍の白タクを巡り、軍と治安機関(保衛部=秘密警察)と人民保安部=警察)の間で衝突する事件が発生したと米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じる。

RFAの両江道(リャンガンド)の情報筋によると、事件が起きたのは今月3日。両江道から黄海北道(ファンヘブクト)の沙里院(サリウォン)に向かっていた朝鮮人民軍10軍団のトラックが、雲興(ウヌン)郡の嶺下労働者区付近にある保衛部(秘密警察)の10号哨所に到着した。食糧が積まれているはずのトラックに大勢の商売人が乗っていることを不審に思った保安員は、商売人の荷物を検査すると言い出したが、これが衝突のきっかけとなる。

「軍人たちは保安員の要求を無視して、停止棒を無理やり押し上げて検問所を強行突破しようとしたが、止めようとする保安員たちと、大げんかとなった。哨所長は拳銃を出して軍人を威嚇したが、数に勝る軍人に敵わず4人の保安員は軍人たちによって袋叩きにされてしまった」(情報筋)

この事態を重く見た人民軍保衛司令部は調査に乗り出し、金正恩第1書記も「哨所の統制を強化せよ」と指示を下した。哨所には警務官(憲兵)と保衛司令部の検閲員が常駐するようになったが、相変わらずトラブルが頻発していると情報筋は語る。また、一部では業務を放棄する検問所も現れたと咸鏡北道(ハムギョンブクト)の別の情報筋は語った。

「鏡城(キョンソン)郡の保衛部検問所では、軍の車両に対する検問をあきらめたようだ。具体的な理由は明らかにしていないが、強行突破や喧嘩などのトラブルが背景にあることは間違いない」(咸鏡北道の情報筋)

どうやら警察も秘密警察も、軍との衝突を恐れているようだ。

一方、治安機関が検問を放棄しているというニュースを歓迎するのが密輸行商人「タルボ」たち。彼らは金、銅、ニッケルなど「ご禁制の品」を扱っているため、検問に引っかかれば非常にマズくなる。つまり検問が緩くなれば商売が繁盛するというわけだ。

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