平安南道(ピョンアンナムド)順川(スンチョン)にある国営工場「炭鉱機械工場」の一部が、トンジュ(金主=新興富裕層)などの個人事業者に賃貸されているとデイリーNKの内部情報筋が伝えてきた。

市場経済が拡大する北朝鮮だが、ついに個人資本が国家の生産設備にまで進出しはじめたようだ。平安南道の内部情報筋は語る。

「炭鉱機械工場の一棟が、トンジュに賃貸されており靴が生産されている。工場側からすれば、工場の倉庫を貸して『トボリ=より稼ぎ』を実践すれば工場の収入源になり工場幹部にとっても利益だ」

「トボリ=より稼ぎ」とは、工場、企業所が与えられた原料と労働力を活用して国指標を達成することや利益活動を表す言葉だ。工場側は利益を第1に考えるので、賃貸先を吟味する。

「工場幹部は、トンジュが生産する製品が市場で売れるいい商品かどうかをまず検討する。そのうえで『売れる!』と判断すれば貸すことになる」(平安南道の情報筋)

トンジュにとって、国営工場の生産設備を使えることには大きなメリットがある。電力供給が安定してるからだ。

トンジュの狙いは「電力」

靴を生産する際、甲革の縫製などは個人宅のミシンでも可能だが、靴底を製造するためには電力設備が必要だ。機械で粉砕した生ゴムとガソリンに混ぜた後、成形加工するためにはコンプレッサーが必須となる。

「家内手工業でモノを製造すれば、ある程度儲けることは可能だが、より稼ぐためには大量に製造しなければならない。そんな時に真っ先にぶつかるのが電力問題だ。トンジュらも口では『使わない工場を遊ばせるのなら、これを利用して国家の生産に貢献しよう』と言うが、本音では工場に供給される電気が目当てのようだ」(内部情報筋)

トンジュらは目当ての工場に電力がきちんと供給されていることを下調べてして、確認してから工場側と契約を結ぶ。

順天の「炭鉱機械工場」では北朝鮮の炭鉱で使用される機器一式のほとんどが生産される。鉄製品を扱うことから一般的な軽工業工場より多くの電力が供給されるのだ。賃貸料は販売利益の約30 %だ

しかし、こうした「工場賃貸」は、まだ一部の工場でしか行われていないようだ。また国家機密施設である軍需工場は、いくらお金を出しても無理だという。

生活消費品を見る目が肥えた北朝鮮庶民

靴に限らず、トンジュらは生活消費品の生産に注目している。北朝鮮住民の購買力が相対的に高くなり、生活消費製品の需要が高まっているからだ。北朝鮮国内の総合市場は日増しに拡大発展しているが、同時に国営商店も個人に賃貸され、生活消費品の販売店が大幅に増加した。「ソビ車」などを利用した物流も改善され「中国産直輸入」との価格競争力も高まっている。

これまで北朝鮮の外貨稼ぎ機関やトンジュは、中国浙江省など人件費が安い地域で生産された低価格低品質の生活消費品を大量に輸入して販売してきた。しかし、こうした低価格の中国製生活消費品では、消費欲求を満たすのは難しくなっている。つまり、北朝鮮住民の目が肥えつつあるのだ。

市場では越冬商戦が開始

北朝鮮の総合市場は、すでに「越冬商戦」が開始されていると情報筋は語った。

「11月から冬に向けた商品が多くなる。先を見る賢い商人は越冬用の生活消費品をすでに確保しているだろう。代表的な売れ筋商品が『冬用の靴』だ」

北朝鮮には「平壌靴工場」と「新義州靴工場」という代表的な二つの靴工場が存在するが、北朝鮮当局の需要が優先され、一般住民への供給が追いつかない。この隙間をトンジュが突き国営工場で靴を製造する。

また、靴底製造のため雇用された労働者は、有害業務に従事することから「有害労働者」として扱われる。日雇い業務に比べると2倍以上の賃金をトンジュは支払う。 需要と供給を見据えながら先回りして売れ筋商品を製造する。危険な業務については一般業務よりも高給を支払う。資本主義国家では当たり前の概念が、北朝鮮でも徐々に浸透しつつあるようだ。

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