今月、金正恩第1書記の鳴り物入りの事業の一つである「未来科学者通り」が完成された。北朝鮮当局は「未来科学者通り」について「金正恩元帥の人民愛」と広く宣伝しているが、なぜか総工費の額を発表し、その意図に注目が集まっている。

未来科学者通りの高層住宅(2015年10月21日付労働新聞より)
未来科学者通りの高層住宅(2015年10月21日付労働新聞より)

北朝鮮の労働新聞は21日、金正恩氏が未来科学者通りを現地指導した時の様子を3面ぶち抜きで報道。総工費は99億5940万北朝鮮ウォン(約1億4900万円)だと明らかにされた。

この予算でマンション2584戸、奉仕網(食堂など)153棟、公共建築11棟を建設したとしているが、単純計算すると1戸あたり360万北朝鮮ウォン(約5万4000円)の建設費用となる。

北朝鮮の一般労働者の月給は、エリートの外貨稼ぎ機関の職員でもせいぜい5000北朝鮮ウォン(約75円)程度であり、100億北朝鮮ウォンは16万6000年以上働いても稼げない金額となる。

北朝鮮がわざわざ総工費を明らかにした意図はどこにあるのか。脱北者のキム・チョルミョン氏(仮名)は「北朝鮮当局が建設費を公開するのは異例」としながら次のように分析する。

「100億北朝鮮ウォンは一般住民にとって天文学的な額だ。数字を公表することによって、金正恩氏がインテリ重視と人民愛を宣伝しようとしているのだろう」

また、北朝鮮で建設事業に従事していた脱北者のファン・グァンボク氏は「清津(チョンジン)市で高級マンションを建設した際、1戸あたり6500ドル(約79万円)の費用がかかったことを考えると、未来科学者通りの1戸あたりの建設費5万4000円はありえない額だ」と述べた。

北朝鮮の建設事業は、主に軍人や突撃隊(労働奉仕隊)などの動員で確保するため、人件費自体はがかからない。未来科学者通りの建設事業は、金正恩氏の肝いりの事業であり資材も優先的に、かつ安価に回してもらえるのは確かだ。

しかし、1億5000万円の総工費はあまりにも低く、ファン氏も「実際には、発表された額の10倍以上はかかっているはず」と見る。

北朝鮮は、10月10日の朝鮮労働党創建70周年軍事パレードに20億ドル(約2375億円)の巨額の費用を投じたが、住民は「無駄使いが過ぎる」と怒りの声を上げている。今回の「100億ウォン」は金正恩氏の人民愛を宣伝しながらも、住民の反発を買わないように実際より少ない額を発表、つまり「逆水増し」をした可能性がある。

ちなみに、現在の北朝鮮ウォンの実勢レートは1ドル8200~8300ウォンだが、公式レートでは1ドルが130ウォンだ。上記では実勢レートで計算しているが、公式レートで計算すると総工費は約7661万ドル(約92億8000万円)となる。こちらの方が実際の額に近いと思われる。

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