金正恩第1書記が幹部たちに「ワイロを受け取るな」と指示したことが明らかになった。しかし、既に深く根を張り体制に絡みついた「拝金主義」を一掃することは、事実上不可能だ。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の北朝鮮内部情報筋は、「最近、頻繁に行われている会議で最高指導者の方針が伝達され思想闘争が行われているが、中身の多くがワイロに関することだ」と語った。

会議で配布された中央が作成した資料には、幹部たちの不正行為が羅列されているが、とりわけ朝鮮労働党創建70周年記念行事に関連した不正行為が多いという。

「仕事をサボって西海閘門、妙香山(ミョヒャンサン)に観光にでかけ、昼間から酒を飲んでいたケースが数件摘発されたケースなどが挙げられている」(RFAの情報筋)

これ以外にも、重要な政治的行事をサボったケースや住民に過度な「税金」の負担を強いたケースなど、様々な不正行為が紹介されている。

金正恩氏「幹部が仕事をしないから経済が発展しない」

金正恩氏は、今年2月19日に平壌で開催された労働党政治局拡大会議で、幹部たちに「不正行為の撲滅」を指示しながら、「制度も、人民も、党の政策もすべてよいのに、経済が発展しないのは幹部がまともに仕事をしていないからだ」と、幹部らを厳しく叱責。その狙いは住民たちの不満を抑えることにあるようだ。

金正恩氏は、ありとあらゆる指示を下すが、それを遂行するための労力や費用は一切担保しない。しかし、今時「自力更生」のスローガンは意味をなさず、指示を遂行するためには、結局は地方政府や現場が住民から金品、物資、労働力を供出させる、すなわち国への忠誠、奉仕という名の「収奪」だ。

自ずと金正恩政権に対する不満は高まるが、これを抑えるためにあえて幹部達を叱責したと見られる。

さらに、不正腐敗との闘いで国民からの支持を得ている中国・習近平国家主席の政策を念頭に置いているとも考えられる。

不正腐敗は北朝鮮体制の構造的欠陥

不正腐敗の責任を幹部になすりつけても、この問題は解決しない。北朝鮮という国そのものに構造的な欠陥があるからだ。 故金日成主席が、税金廃止を宣言したため、税金の代わりに金品物資を「供出」させ、「動員」しなければならない。

「遺訓政治」が国是である北朝鮮では、金日成氏、金正日氏の政策にどれだけ問題があっても、公式に撤回することはできない。撤回すれば「祖父と父の政策に歯向かうとんでもない孫」と批判され、金正恩体制の弱体化に繋がりかねない。

 

給与水準が実生活と乖離

構造的欠陥のもう一つが、幹部のみならず北朝鮮全体の給与水準が現実と乖離している点だ。幹部が手にする月給は、わずか5000北朝鮮ウォン(約75円)ほどで、コメ1キロも買えないほどの薄給だ。

80年代以前は、国の配給システムがそれなりに機能しており、現金収入がなくても最低限の食料、衣類、住宅などは保障されたが、90年代後半の大飢饉「苦難の行軍」の頃から、配給制度は有名無実化した。つまり生きていくには、なによりも「現金」が必要になったのだ。

北朝鮮で、4人家族が1ヶ月生活するには少なくとも20万北朝鮮ウォン(約3000円)、子どもにまともな教育を受けさせるには60万北朝鮮ウォン(約9000円)が必要だ。給料を現実に合わせるためには、何十倍も価値を上げる必要があるが、根拠のない紙幣増刷はハイパーインフレと北朝鮮ウォンの暴落を招きかねない。

もはや、北朝鮮国民でさえ信用しない北朝鮮ウォンが、これ以上下がれば、金正恩体制はますます弱体化するだろう。

税金制度は復活できず、月給も上げられない——生活費が足りない公機関のイルクン(職員)たちに、残された方法は「住民から金品を供出させて税金の代わりとする」「住民からワイロを巻き上げて幹部を含めた公務員の収入を確保する」ぐらいしかない。

北朝鮮の賄賂と拝金主義は、故金日成氏の根本的に間違った経済政策が生み出したと言っても過言ではない。

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