北朝鮮の金正恩第1書記は、飛行機に対して格別な愛情をもっているようだ。今年6月、北朝鮮の「平壌国際空港第2ターミナル」が正式にオープンしたが、さらに東海岸の元山(ウォンサン)国際空港、通称「カルマ飛行場」も試験運用に入ったという。

新設された元山国際空港の滑走路とターミナル(画像:労働新聞キャプチャー)
新設された元山国際空港の滑走路とターミナル(画像:労働新聞キャプチャー)

軍用飛行場だった「カルマ飛行場」は2011年末に、金剛山観光プロジェクトの一環として拡張計画が発表された。滑走路は、日本の愛知県に所在する「中部国際空港」と同じ3500メートル。

計算上、超大型旅客機A380の離着陸が可能な長さだが、同空港のターミナルは、滑走路の規模に比べると小さく年間旅客処理能力はわずか120万人。中部空港の1700万人に比べると、いかに規模が小さいかがわかる。

中部空港の2015年夏ダイヤによると、国際線は週296便、国内線は1日77便が運行中だ。一方、元山空港は平壌からの国内線チャーター便のみ。それも、乗客がいるときだけ運行される。

平壌国際空港の滑走路は3800メートルだが、離着陸する最大の旅客機は座席数210の「ツポレフ204」で、1日わずか3便ほどだ。これは2000メートルの滑走路を持つ山形県の「庄内空港」と同じ規模だ。

そもそも、拡張の出発点である「金剛山観光プロジェクト」自体が、見通しがたっていない。金正恩氏の空港建設計画が、いかに現状に合っておらず、プロパガンダに過ぎないかがよく現れている。しかし、それに懲りずに、新たな国際空港の建設を計画している。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の咸鏡北道(ハムギョンブクト)情報筋によると、「金正恩氏は、蓋馬(ケマ)高原と黄海南道(ファンヘナムド)に新たな空港建設を計画している」という。

機内から見た雨の漁郎空港(画像:calflier001)
機内から見た雨の漁郎空港。現在拡張工事が行われている。(画像:calflier001)

蓋馬高原は、北朝鮮の北部のど真ん中、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の長津(チャンジン)、赴戦(プジョン)など、摩天嶺(マチョンリョン)、狼林(ランリム)、赴戦嶺(プジョンリョン)の3つの山脈に囲まれた1000~2000メートル級の高原地帯で、別名「朝鮮の屋根」だ。

気候は清涼で景色は素晴らしいが、開発が極端に遅れている地域だ。2007年の南北首脳会談では、北朝鮮側から「この地域を南北共同で開発しよう」と提案され、韓国の統一省もフィージビリティ・スタディ(事業化可能性調査)に乗り出したが、南北関係悪化で計画は完全にストップした。

現地出身の脱北者キム・ヒョンセ氏(仮名)は、「蓋馬高原は山林ばかりで、現状では観光地としての価値はない。観光地として売り出すにも、道路や鉄道が整備されていない」 と語っている。

さらに、黄海南道にも、空港建設が企画されている。黄海南道は、海に面した平野地帯で高麗の都だった開城(ケソン)などがある。外国人観光客も多く訪れる地域だ。

平壌から開城までは、高速道路で2時間しかかからず、道庁所在地の海州(ヘジュ)も2時間半で到着する。わざわざ巨額の資金を投入して、新空港を作る理由は「ゼロ」と言ってもいいだろう。

拡張工事が始まる前の三池淵空港(画像:Mark Fahey)
拡張工事が始まる前の三池淵空港(画像:Mark Fahey)

実は、人口が北朝鮮の2倍以上で、2014年の訪問観光客数が1400万人と北朝鮮とは桁外れに大きい韓国でも、90年代に「ハコモノ行政」に走り、地方空港を新設しすぎた痛い過去を持る。その一番の失敗例が江原道の襄陽国際空港だ。

2001年にできた襄陽国際空港は、路線の誘致にことごとく失敗し、一時は路線がゼロだった時期すらある。年間処理能力は4万3000回だが、2013年にはわずか198回で、年間76億ウォン(約7億7000万円)の赤字が発生している。

閑古鳥が鳴いている韓国の襄陽国際空港(画像:Jhoyg3)
閑古鳥が鳴いている韓国の襄陽国際空港(画像:Jhoyg3)

襄陽国際空港は、既存の江陵、束草の空港を統合し、平昌オリンピックの会場へのアクセスを確保する目的で作られた。しかし、ソウルから平昌まで車で2時間半だが、襄陽空港から平昌までは2時間もかかる。これでは利用客が少ないのも無理はない。

北朝鮮が計画している、蓋馬高原や黄海南道の新空港は、襄陽空港よりもっと悲惨なことになるのは火を見るより明らかだが、さらに、金正恩氏は空港拡張を指示。漁郎(オラン)空港と三池淵(サムジヨン)空港を国際空港にするための拡張工事が始まっている。

それぞれ朝鮮を代表する名勝地、七宝山(チルボサン)、白頭山(ペクトゥサン)に近い空港だ。

「観光業で経済を活性化させる」という発想自体は、決して悪くない。しかし、無計画な「ハコモノ行政」に走っている限り、北朝鮮が掲げる「2017年まで観光客100万人を誘致」は、難しいだろう

デイリーNKジャパンは、実際に北朝鮮を訪れた観光客らの取材を通じて、「北朝鮮当局が工夫をすれば『朝鮮旅行』は、もっと魅力的になる」と提言しているが、観光客を誘致するために、整備すべきものは何だろうか。手を着けるべき部門は数多いが、まずは「高速道路」だ。

現在、北朝鮮には、平壌から南浦、開城、妙香山、そして元山経由の金剛山の4方向に高速道路が伸びている。しかし、「物流の大動脈」であり、新義州と平壌を結ぶ高速道路は未だに建設されず、途中の安州で止まっている。先に進むにはデコボコの一般道路を通らざるをえない。

状態が非常に悪い北朝鮮の高速道路。しかし、これでも一般道路に比べれば良好だ(画像:Taver)
状態が非常に悪い北朝鮮の高速道路。しかし、これでも一般道路に比べれば良好だ(画像:Taver)

平壌から新義州までは約250キロ離れている。高速道路が開通すれば、早ければ2時間程度で往来可能だ。しかし、現在、外国人観光客は新義州から、5時間以上かけて列車で平壌に向かわなければならない。この移動距離が2時間程度になると、中国・丹東市からの「平壌日帰り観光」も可能になる。もちろん、物流もよりスムーズになるだろう。

中国や米国における高速道路1キロ当たりの建設コストは、約700万ドル(約8億4000万円)と言われている。約150キロの安州ー新義州間の高速道路の建設コストは、ざっと見積もって約10億5000万ドル(約1260億円)。実際は、これよりさらに安価に建設可能だろう。

朝日新聞によると、金正恩氏が外国人観光客誘致のために鳴り物入りで建設した「馬息嶺スキー場」の建設費は、1500億円に達している。しか北朝鮮にスキー愛好者が少なく、よっぽどの物好きでない限り、訪れようとする外国人観光客も多くない。さらに、アクセスも悪いことから閑散としているという。

こうした状況で、金正恩氏は無駄な空港建設に巨額の資金を投入しようとしているのだ。もはや、「最高指導者が観光業の発展をジャマしている」と言っても過言ではない。

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