北朝鮮で、ある母親が当局の息子に対する理不尽な扱いに耐えかねて、立ち上がったと米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市淵豊洞(ヨンプンドン)36班に住む50代半ばのカン(仮名)さんは、夫と死別し、10年の兵役を終えて間もない息子(31歳)と二人で暮らしていた。

息子が結婚することになり、結婚資金を作るために山羊と犬を中国に密輸しようとしたが、摘発される。見せしめとして3年の懲役刑が言い渡され、昨年3月に平安南道(ピョンアンナムド)の成川(ソンチョン)にある教化所(刑務所)に収監された。

今年8月15日、北朝鮮当局は光復(日本の植民地支配からの解放)70周年の日に合わせて、全国の教化所の受刑者に対して1回目の恩赦を実施したことから、カンさんは息子の帰りをひたすら待っていた。

ある日、彼女は恩赦のリストに息子の名前があることに気付く。しかし、待てど暮らせど息子は帰ってこないので、心配になった彼女は息子が収監されている教化所を訪ねた。

そこで、彼女は耳を疑うような事実を聞かされる。

実は、息子はすでに獄死していた。カンさんは、「死因を教えてくれ。遺体だけでも返してくれ」と要求したが、教化所は一切聞き入れなかった。

怒りと悲しみに暮れる日々を送っていたカンさんだが、どうしても許せず、平壌にある労働党中央委員会組織指導部の信訴処理科を訪れ、息子の遺体を返して欲しいと公に訴えるに至った。

「信訴」とは、中国の「信訪」と同様に、理不尽な目に遭っていることを中央に直訴するシステムで、一種の「目安箱」のようなものだ。

例えば、人民のために熱心に働いていたある幹部が、その人望に妬んだ別の幹部に嵌められて閑職に追いやられた。それを中央党の信訴科に手紙で訴えたところ、調査が行われ疑いが晴れ無事復職できたケースもある。世界的に見ても、最悪と言われる人権後進国の北朝鮮だが、こうした救済措置もあるのだ。

金日成氏は生前、信訴科に届いた手紙に必ず目を通し、指示を下すほど「信訴」は重要視されていたが、金正日政権に入ってからはその機能が低下したと言われている。

こうしたことから、地元住民もカンさんの直訴の行方に注目しており、大きな話題になっている。

現地の情報筋によると、住民からは今回の件をきっかけに、当局の処刑者、獄死者の遺体の扱い方について不満の声が上がり、「遺体を返すべきだ」という声が高まっている。

北朝鮮では、公開処刑や獄死した場合、当人の遺体は遺族に返されないのが長年の慣行だった。遺骨を返してもらえず、きちんと葬ることが許されないことで、遺族の苦しみはいっそう重いものになっている。

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