北朝鮮の首都・平壌では時折、珍しい光景に出くわすことが出来る。日本の中古バスが市内を走り、市民達が利用しているのだ。それも1台、2台ではなく阪神バス、阪急バス、大阪市営バスなどが疾走している。

これらは、日本から輸入された中古バス。平壌だけでなく中朝国境を往来するトラックのなかには日本の宅配会社の車両がロゴもそのままに走る姿も見られる。

電力不足や運営資金不足などで、公共の交通機関がままならないなか、トンジュと言われる新興富裕層がこうしたバスを運営し、交通ビジネスに参入している。

バスについては、トンジュたちが、運転主や車掌も選び、運行回数や乗客数に応じて給料を払うなど歩合制が導入されるなど、事実上の市場経済方式で運行されているのだ。

トンジュが運営するバスは料金は高いが、運行も安定しておりサービスも良い。これに比べると既存の公共交通機関は苦戦しているようだが、それでも平壌には地下鉄、路面電車、無軌道電車(トロリーバス)が存在する。

こうしたインフラを利用したツアーも存在し、その動画を見ると、漫才師のようなコンビが外国人相手にテンポよく路面電車の説明をするなど、なかなか楽しそうだ。

しかし、なぜか金正恩第1書記は、路面電車の路線の一部を廃止せよという指示をくだした。理由は、「美林(ミリム)乗馬クラブに向かう外国人に路面電車を見せたくないから」、つまり美観のためだという。

これに対して平壌市民からは「外国人と市民のどっちが大切なのか」と不満の声が上がっているが、なぜか日本の鉄道ファンからも嘆く声が出ている。

アジアの鉄道・バス事情を紹介するサイト「西船junctionどっと混む」の管理人であるPierre2427(ピエールにしふな)氏は、「地下鉄・路面電車・無軌道電車(トロリーバス)、さらに日本の中古バスも多く活躍する平壌は、鉄道・バス好きにとってまさに『地上の楽園』です。廃止が事実なら本当に残念」と語った。

歴史あるレトロなインフラが、観光資源になることは世界各国が証明している。ピエール氏が「地上の楽園」と断言する平壌の路面電車やトロリーバスは、工夫をすれば観光資源としてより活用できるだろう。

金正恩氏も、スキー場や乗馬クラブなど中途半端に現代的な観光地に資金を投入するのではなく、こうした既存のインフラを最大限生かした観光に力を入れるべきだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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