北朝鮮が15日、いったん停止していた核施設の全面的な再稼働を表明した。再稼働の徴候は米国のシンクタンクが商業衛星写真の分析により把握していたが、それを公式に認めた形だ。

北朝鮮は同時に、4回目の核実験を示唆する「核の雷鳴」との表現までを使い、国際社会にアピールしている。

これに対し、アメリカ・ホワイトハウスのアーネスト報道官は「地域の緊張状態を悪化させる無責任な挑発行為をすべきでない」と批判。菅官房長官も「北朝鮮に対して挑発行為の自制、関連する国連安全保障理事会の決議や6カ国協議の共同声明の順守を求める」と発言した。韓国など主要各国も、これに追随している。

しかし、これらのコメントはいつでも言うことのできる「原則論」であり、北朝鮮の言動にビビッドに反応したものとは言えない。マスコミの報道もいたって単調である。

北朝鮮は以前から、米国に対して核兵器を使用する可能性について示唆してきた。

それにもかかわらず、米国は北朝鮮との対話を模索したり、軍事的圧力をかけたりする顕著な動きを見せてはいない。北朝鮮が挑発によって緊張を激化させ、交渉相手から譲歩を引き出してきた旧来の外交戦の構図が、完全に崩れ去っているのである。

しかしこれを、単に「北朝鮮の戦術が陳腐化した」とのみ理解するのは危険かもしれない。

北朝鮮が、「核を凍結したり、放棄することを論じる対話には全く関心がない」との主張を繰り返しているために、米国なども対話の糸口を見いだせていないのである。

もしかしたら米国の対北戦略は、「思考停止」に陥っているのではないか。

そうする間にも、北朝鮮は核開発を進展させており、それに従い東アジア安保は不安定さの度合いを増している。とくに日本は、北朝鮮の核問題をほとんど論じないまま安保法制を成立させてしまうことで、逆に北朝鮮からの「核報復」リスクにさらされる矛盾に直面しつつある。

この8月、朝鮮半島は戦争の瀬戸際にあった。意図せざるエスカレーションにより、戦争に突入してしまう危険性が高まっていたところ、金正恩氏が韓国との「チキンレース」に敗れてくれたのは幸いだった。

現に、自国軍の兵士の身体が地雷で吹き飛ばされる映像を見せられた韓国国民の間には、「北と戦うなら、戦場へ行く」との空気が醸成されていた。

しかし、いくら北朝鮮の国力が疲弊しているとはいえ、核武装した国との戦争に想像を絶するリスクがあることを忘れるべきではない。

米国など主要各国も、北朝鮮に対して戦略的な「シカト」を決め込むのならよいのだが、くれぐれも「思考停止」に陥らぬよう願うばかりだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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