北朝鮮の金正恩第1書記は、海外からの情報流入にきわめて敏感になっているようだ。

今月3日、中国・北京で行われた抗日戦争勝利70周年を記念する軍事パレードの生中継を、中国の電波を拾って見ていた北朝鮮の人々が、保衛部(秘密警察)に次々に逮捕される事態が起きた。

韓国や米国のテレビならともかく、長らく友好関係を築いてきた中国のテレビ放送を見ただけで逮捕とは、いくら最近は不仲だといっても異例と言える。

件のパレードには北朝鮮から崔龍海(チェ・リョンヘ)労働党書記が出席したが、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領と比べて明らかに冷遇された。すると北朝鮮はすかさず、中韓蜜月を非難する、ジェラシー丸出しのメッセージを発している。

しかしそれは、パレードが終わった後のことだ。パレードの生中継を見ている住民宅にリアルタイムで秘密警察が踏み込むとは、中朝関係が影響したというよりも、別の要素が動機となった方が正しいだろう。

では、別の要素とは何か。まず考えられるのは、朴槿恵大統領が習近平国家主席やロシアのプーチン大統領と肩を並べ、華々しい外交を繰り広げる姿を見せたくなかったのではないか。

金正恩氏は最高指導者となって以降、一度も外遊をしておらず、外国の首脳との会談もしていない。そして実は、多数の国家元首が集まる国際舞台への出席は、北朝鮮の独裁者が苦手とする、外交上の最大の弱点なのだ。

とりわけ正恩氏は、側近らを文字通り「ミンチ」にするようなやり方で処刑している事実が、衛星画像などで把握してしまっている。

そんな人物と握手することは、外国の国家元首にとっても明らかに「リスク」となる。

しかし、そうした弱点を情報統制で糊塗しようとしても、すでに手遅れである。北朝鮮国民への海外情報の浸透は、止まるところを知らない。

北朝鮮には、相変わらず海外ドラマや映画の流入が続いている。主力はやはり韓流ドラマで、最近では会社内の人間模様を描いた『未生〜ミセン〜』や青春ロマンスの『応答せよ1994』が人気だという。

金正恩氏が国際的な「ひきこもり」を続けているうちに、国民たちは外の世界に着実に接近しているのである。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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