デイリーNKは先月26日、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の中朝国境に面した鉱業都市、茂山(ムサン)で先月26日に保安員(警察)と住民の間で乱闘騒ぎが起きたことを伝えたが、その原因は、金正恩第一書記の「ある指示」が発端になったようだ。

北朝鮮の地方都市の市場
北朝鮮の地方都市の市場

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、金正恩氏は6月17日に、「『コルモクチャン』(路地市場、露店)を廃止せよ」という指示を出した。この指示によって全国的に「コルモクチャン」への取締が強化され、全国各地で保安員と住民との衝突が起きているという。

冒頭の茂山は、巷では「商人たちの小さな暴動」と呼ばれているが、詳細も徐々に明らかになってきた。

茂山には、「茂山市場」「南山市場」そして茂山女子中学校の向かいに位置する「成川江市場」の3つの市場があるが、今回の衝突は「茂山市場」と茂山駅との結ぶ道で起きた。

この通り沿いに住むアズマイ(主婦、女性たち)たちが、いつものように家の前に商品を販売したところ、保安員が急襲。奪われまいとアズマイたち激しく抵抗して大騒ぎになったという。

外の騒ぎを聞きつけた、家の中の夫が飛び出し、保安員に品物を返すように要求したが、いくら懇願しても返そうとせず、大げんかとなった。これに、周囲の商売人たちも自転車やバイクで現場にやってきて乱闘騒ぎに発展したのだ。

北朝鮮の市場の主力はアズマイたちだ。男性、とくに若い男性の役割は、自転車、バイク、石炭、薪などの大きな商品を運搬することだが、彼らは、それなりに裕福で連帯意識も強い。

男性たちは、保安員に賄賂を渡しながら持ちつ持たれつの良好な関係を築いてきたが、さすがに保安員のやり方が横暴なことからアズマイたちに加勢し、乱闘騒ぎになった。

激しく抗議する商人たちに保安員は「これは将軍様(金正恩氏)の指示だ」と脅し言葉をかけたが、男性たちも負けずに反撃した。

「賄賂をぶんどるのも将軍様の指示か!!」

この騒ぎに、北朝鮮当局は住民の反抗を恐れて事態の収拾に動いている。騒ぎを起こした商人は逮捕したが、罰金刑のみで釈放している。

しかし、露店への取締は相変わらず続いており、市場で売台(テナント)を借りるほどお金のない住民の生活はより困窮している。

「コルモクチャンを廃止せよ」という金正恩氏の指示があったにせよ、住民たちの窮状を知っている保安員たちは、これまでは、普段は露天を開いている商人たちを追い払うだけで、商品の没収まではしなかった。

しかし、なぜか今回、突然取締が強化されたわけだが、それにはいくつかの背景がある。

通常、市場で店を開くには日々の市場管理税に加えて、中国人民元で2000元から5000元(約4万~10万円)の権利金が必要になる。5000元といえば北朝鮮で4人家族が1年間暮らせる大金だ。

しかし、市場外の露店からは管理税や権利金が地方政府に入ってこない。北朝鮮には「我が国には税金がない」という建前があるだけに、税収が入ってこければ、地方政府は立ちゆかなくなる。

さらに、投資をして市場内で商売している商人たちからも「不公平だ」との声が上がっていた。

また、金正恩氏自身の「見栄」もあるようだ。金正恩氏は2012年5月に「市場を現代化して国の顔にしなければならない」として市場のグレードアップを指示したが、平壌から地方の村に至るまで露店が溢れている現状は変わらない。

その光景が外国人観光客の目に触れることを嫌がった金正恩氏が、取り締まり強化を指示した。もちろん、市場も露店も貴重な観光資源のはずだが、見栄えを気にする金正恩氏には、その辺りの事情が理解出来ないようだ。

ただし、いくら当局が取締を強化しても、「根絶は無理だ」と情報筋は指摘する。

露天に反して、当局が認可した市場の規制は金正恩氏の方針もあって、じゃっかん緩和されているが、自転車、オートバイ、中古家電など売買禁止の商品も多い。こうした商品は、市場外で売買せざるを得ないからだ。

さらに、露店で食料品、雑貨、野菜など細々としたものを販売する住民は、北朝鮮で最も困窮した住民層だ。最も貧しい住民から生活手段を奪おうすれば、反発を食らうことは火を見るより明らかだ。

保安員の横暴ぶりも相変わらずだ。タバコ、酒、乾物を売る商人の露天にやってきては、「ツケにしてくれ」と半ば無理やり商品を「没収」するので、商人たちは泣き寝入りするしかない。

2月の労働党政治局会議の場で、金正恩氏は、幹部や司法機関イルクン(職員)の不正行為を厳しく責め立てたというが、「市場を管轄する保安員の不正行為は、暴力団なみだ」と情報筋は指摘する。

経済を発展させるのなら、まずは住民たちがもっと自由に商売できる環境を作り出すことからはじめるべきだ。

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