かつて、韓国では親北朝鮮系や左翼的な考え方を持つ人々に対して「パルゲンイ(アカ)」と言って罵倒していた。今では「従北(チョンブク)」と呼んで攻撃することが多いが、なぜか北朝鮮でもこの言葉が変わった意味で流行していると、デイリーNKの内部情報筋が伝えてきた。

平壌の女性たち(本文とは関係ありません) ©Matt Paish
平壌の女性たち(本文とは関係ありません) ©Matt Paish

北朝鮮メディアでは、韓国を非難する際に「従北」という言葉を頻繁に使用する。韓国内の親北朝鮮派を間接的に応援し、「南南葛藤」を狙う意図からだ。

例えば、8日付の労働新聞「北侵戦争挑発を合理化するための南朝鮮傀儡どもの『従北論』を断罪」というタイトルの記事では583文字の短い記事に「従北」という単語が8回も登場する。

「金正恩大好き人間」を「従北」と呼んで馬鹿にする

公式メディアがこんな記事を量産するものだから、本来なら北朝鮮国内で使われるはずのない「従北」という言葉が市民権を得てしまった。そして、北朝鮮の庶民たちはそれを「ネタ」に、厳しい環境を生き抜いてきた人々ならではのブラックユーモアを発揮する。

北朝鮮では、工場や企業所で体制――すなわち「お上に」に従順で世事に疎く、受けた指示通りに懸命に働く人を「熱誠党員」と呼んで揶揄してきたが、それが最近では「従北」という呼びかたに変わった。また、「金正恩大好き人間」をバカにする言葉としても使われている。

さらには、秘密警察である国家安全保衛部のスパイをバカにする際にも使われる。貿易関係者たちが懸命に働いている傍らで、彼らの思想動向を監視して保衛部に報告しているスパイに対し、「従北してるのかよ」などと言って揶揄するのだ。

こうした言い方をすれば、「従北」→「北に従う」→「元帥様に従う」という本来の意味が隠れみのになるため、「体制を批判した」と突っ込まれる余地がないので便利なのだという。

「最高尊厳」は金正恩氏ではなく金持ちのこと

他方、市場で商品を独占するトンジュ(金主)を「最高尊厳」と呼ぶのも流行っている。世の中で一番大事なおカネをたくさん持っている、という意味合いだ。

がんばって商売すれば『最高尊厳』になれるが、現実を知らずにプロパガンダをそっくりそのまま信じてしまう『従北』にはなりたくない――そんな庶民の思いが、こうした流行語にはよく表れている。

北朝鮮において流行語は、外部から流入した韓流ドラマからもたらされたりもするが、労働新聞や朝鮮中央テレビなど北朝鮮の公式メディアで頻繁に使われる用語から生まれることが多い。本来は公式に認められた用語なので取締に遭う心配がないからだ。

「うちのダンナは『従北』(甲斐性なし)なのよね。『最高尊厳』(金持ち)と結婚すりゃよかった」

既婚女性たちの間ではこんな会話が交わされているという。

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