韓国海軍の哨戒艦「天安」が魚雷を使った北朝鮮の奇襲により撃沈され、26日で丸5年となった。韓国メディアはこの話題一色で、いまだに「沈没はアメリカの謀略だ」と強弁する北朝鮮に対し、批判の声を強めている。

同時に保守系の識者らは、「北の主張に同調する勢力が国内にあることが、彼らの暴走を助長する」との主張を展開。駐韓アメリカ大使襲撃事件で世界の知るところとなった国内分裂の根深さを、いま一度浮き彫りにしている。これはつまり、得意の潜水艦作戦を成功させ、何が何でもシラを切り通す北朝鮮側の「作戦勝ち」とも言える状況かもしれない。

北が続けざまに敗北

一方、「天安」事件は軍事的にも重要な意味を持っている。

韓国の軍事アナリストの間からは、「あの事件を境に、南北間の海上での軍事対立は『平面的』なものから『立体的』な次元に移行した」との指摘が聞こえる。

「天安」事件が起きる以前から、軍事境界線の西側海域(黄海)では南北の軍事衝突が繰り返し起きている。

しかしそのいずれもが、水上艦艇どうしの“一騎打ち”や“団体戦”であり、使われる兵器は艦載砲までに限られていた。衝突を限定的なものに収めようという双方の「暗黙の了解」によるものだが、それがなぜ、「天安」事件では魚雷攻撃にまで発展したのか。

経済力で引き離され

伏線は、1999年の第1延坪海戦と2002年の第2延坪海戦、さらに2009年の大青海戦で引かれた。南北の警備艇が激突したこれらの戦闘で、北朝鮮は続けざまに敗北。大量の戦死者を出したのだ。

1970年代、多数のソ連製魚雷艇を装備した北朝鮮海軍は、当時の韓国海軍を凌駕するその戦力をもって、この海域をわがもの顔で行き来した。

それが韓国に経済力で引き離されるに伴い、その新型装備に太刀打ちできなくなったのだ。

「天安」事件で北朝鮮は、「潜入」「待ち伏せ攻撃」「陽動作戦」を行うために、複数の潜水艇や半潜水艇、特殊部隊チームを投入した可能性が指摘されている。警備艇どうしが出会い頭に撃ち合っていた時とは、次元の違う作戦行動だ。

同事件に続く2010年10月の延坪島砲撃で北朝鮮は、海岸・陸上の砲兵部隊も動員。武力行動の範囲は水面から水中、地上へと広がった。

北がムキになる理由

それにしても、北朝鮮がここまでムキになる理由は何か。

それはこの海域を含む黄海が、中国の「裏庭」だからだ。中国が米海軍の黄海での展開を嫌っているため、北朝鮮はアメリカや日本の海上自衛隊の介入を恐れることなく、韓国に対して武力挑発を行えるのである。

「天安」事件と延坪島砲撃を受けて、韓国軍は艦船や海底のソナーを強化。イスラエル製の無人機「ヘロン」を導入して、北朝鮮側の動きを早期に察知する能力を高めた。さらに、艦対地ミサイルや多連装ロケットシステムによって、遠巻きから相手を攻撃できる手段を整備している。旧式兵器ばかりの北朝鮮が相手なら、とりあえずは十分な備えと言える。

新兵器を投入

しかし今年に入り、北朝鮮側が意外な新兵器を持っていることが明らかになった。従来より性能が数段上と見られる対艦ミサイルと、それを装備したステルス高速艇だ。

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新型対艦ミサイルを試射する北朝鮮海軍のステルス高速艇/労働新聞より

対艦ミサイルはロシア製のコピーだが、韓国メディアの中には「外見を真似ただけのハリボテだ」と見る向きもある。精密な電子部品を入手できない北朝鮮に、高性能なミサイルを作れるわけがない、というわけだ。

撃たれるまで待てない

その見立てが正しいかどうかは、北朝鮮の軍部から機密情報が流出するか、あるいは件のミサイルが実戦で使われてみなければわからない。

しかしまさか「試しに撃たれて見る」わけにもいくまい。実際の性能がどうあれ、前線で対峙する部隊にとっては脅威に変わりないのだ。

従来とは異なる次元で対峙する南北の部隊は、おそらくかつてとは異なる緊張の中にある。そして過度の緊張は、偶発的な衝突を一気に拡大させかねない。

「天安」事件から5年を経て、沈没現場となった海域はさらに危険の度を増していると言えるのだ。

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