米韓合同演習に猛反発「北朝鮮の防衛強化は当然」

1年前のクリミア半島併合時、情勢次第では核戦力を臨戦態勢に置く可能性があったとするプーチン・ロシア大統領の発言に、日本や欧米各国が衝撃を受けている。発言の背景には、ロシアの周辺地域が欧米によって侵されている、とする強烈な警戒感がある。その超強硬な姿勢はすでに、極東ロシアと米韓および日米同盟との「緩衝地帯」となっている北朝鮮情勢にも影響し始めている。

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プーチン大統領と第2次世界大戦の老兵たち/ロシア大統領府提供

プーチン氏は、15日に放映されたロシア国営テレビのドキュメンタリー「クリミア、祖国への道」の中のインタビューで、司会者との間で次のようなやり取りを交わした。

司会者「クリミアの状況がロシアに不利に展開した場合、ロシアが核戦力を臨戦態勢に置く可能性はあったか」

プーチン氏「われわれは、それをする用意ができていた」

クリミアでは当時、ウクライナ中央での政変を受けて武装勢力(正体はロシア軍兵士)が空港や議会を占拠。米海軍のイージス艦が黒海に派遣されるなど軍事的緊張が高まっていたが、実際にロシアが核の使用を考えるような展開になった可能性はきわめて低い。ウクライナ周辺に即時集結し得る通常戦力の規模で、ロシアが欧米を圧倒していたからだ。

プーチン氏の発言はむしろ、これ以上ロシアの周辺を侵すことは許さないという、米国などに向けた政治的メッセージの性格が強いと見られる。

台頭する「西側の陰謀」論

軍事アナリストの小泉悠氏によれば最近、「『形を変えた侵略』という概念がロシアの国家指導部で広く共有されている」という。「旧ソ連諸国での『カラー革命』やアラブ諸国での『アラブの春』、そして2014年2月に発生したウクライナでの政変などについて、単なる民主化運動ではなく、西側の陰謀である、という見方だ」。

ロシアはこの見方に沿って、昨年12月に改訂した軍事ドクトリンに、「非核抑止力システム」という概念を盛り込んだ。これは「対外政策、軍事的手段、軍事技術的手段の総体であって、非核手段によってロシアに対する侵略を防止することを目的としたもの」と定義されている。

要するに、民主化運動や民族・宗派間紛争などの形をとった「形を変えた侵略」に対抗するためには、核抑止力では十分でなく、軍事と非軍事を組み合わせた幅広い取り組みが必要だということだ。では、それは具体的にどのような形を取るのか。

極東においては、対北朝鮮関係に端的に表れている。

昨年来、ロシアと北朝鮮は要人の往来を活発化させており、2015年を「親善の年」に設定。経済面でも協力を深めている。

そして、それにも増して目を引くのが両国メディアの論調だ。

北朝鮮の朝鮮中央通信は関係が冷却化している中国に対して「ネガティブ・キャンペーン」を張る一方、ロシアに関する記事は数も多く、友好ムード一色。ロシアの肩を持って、ウクライナ批判も展開している。

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ロシア側の論調はさらに露骨だ。国営ラジオ「ロシアの声」は3月4日、北朝鮮が猛反発している米韓合同軍事演習について、ロシア科学アカデミー極東研究所朝鮮調査センターのアレクサンドロ・ゼービン所長の声を借り、次のような論陣を張った。

「私なら、最も単純な問いから始める。一体どこで演習が行なわれているのか、ということだ。北朝鮮はカリフォルニアかフロリダの沿岸部で演習をやっているとでもいうのか? それとも、北朝鮮の空母がロサンジェルスかリッチモンドを巡航しているのか? あるいは北朝鮮の海兵隊が米国沿岸に降り立ったとでもいうのか? 米国から何千マイルも離れた場所で米国は何万、いや何十万人もの軍人の参加する演習を行なっている。これはもちろん、演習場所の近隣諸国の憂慮を招かないわけはない。このため、北朝鮮が自国の国防能力の強化策を取るのは当然のことだと思う」

「私はそうした(北朝鮮をめぐり米韓が中国との対立に踏み切るだろうという)危険性も除外しない。なぜなら韓国は事実上北朝鮮を煽動しており、米国が北朝鮮に攻撃をしかける口実になりそうな報復的行動を起こさせるよう導いているからだ。世界の情報空間では米国および西側のマスコミが覇権を握っていることを考えると、まるで米韓が北朝鮮からの暴力と煽動に反撃を行なったかのような事態は期待できると思う。これこそが、こうした演習のたくらみなのだ。心理的、プロパガンダ的準備が進行している。これは、新たな北朝鮮の指導者の経験の足りなさを利用し、相手はおそらく激しい報復に出てくるだろう、そのときはこれを前提条件に北朝鮮を懲らしめてやろうという方向へむいている。おそらくこれは大規模な介入ではなく、限定攻撃を行い、それに北朝鮮がどう反応するかを見るためではないだろうか。」

人権問題でも北朝鮮擁護

ロシアが米韓合同演習に不快感を示すのは初めてでないにせよ、この論調は金正恩氏にとって100点以上の出来と言える。正恩氏にとってさらにありがたかったのは、これに先立つハングル版3月3日付(日本語版は4日付)の報道だったかもしれない。「ロシアの声」は人権問題について、北朝鮮を強力に擁護している。

今の世の中で、程度の差こそあれ、こうした(人権侵害の)問題が存在しないという国を挙げることは容易くない。だが、なぜか西側は重要な要因を無視している。たとえば北朝鮮を批判するために使われる状況は同国から少なくとも10年も前に逃げ出してきた人間の証言だ。仮に脱北者の証言に何らかの真実があったとしても、当時、まだ大学にも行っていなかった金正恩氏が当時の情勢に一体どんな責任を負わねばならないのか、甚だ疑問ではないか。
(中略)
北朝鮮は基本的には人権問題に関する対話を拒絶していない。特に2000年代初頭、そうした対話はEUとの間に行なわれており、十分に生産性のある結果に欧州は満足していた。だがこの対話は米国には気に入らなかったことについては、欧州の研究者、政治家らは様々な会議の席で露骨に指摘している。北朝鮮の人権問題は人工的に誇張されたものであり、西側のこうした問題に対するダブルスタンダードを顕著に示す一例だといえる。

北朝鮮はいま、人権侵害の問題が国際刑事裁判所に付託され、「最高尊厳」である正恩氏が「人道に対する罪」で裁かれることを最も恐れている。

しかし、ロシア国営放送のこのような論調は、国連安保理においてロシアが北朝鮮の人権問題追及に決して同意せず、必要に応じて拒否権を発動するという“保証”を与えているに等しい。

ロシア政府は、5月に行われる第2次政界大戦での戦勝70周年式典に正恩氏を招待しているが、日本政府関係者によると、「北朝鮮もロシア側に応じる方針を示している」という。

もし、プーチン氏から厚遇が約束されているならば、正恩氏はロシアにおいて、華やかな国際舞台デビューを飾ることもあり得る。そこで正恩氏がロシアの後ろ盾に信頼を深めることになれば、日本人拉致を含む北朝鮮の人権問題改善が、さらに遠のくことにもつながりかねない。

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