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北朝鮮が、アメリカのオバマ大統領を非難するのにまたもや人種差別表現を用いている。。

今月4日、北朝鮮の国防委員会は声明「米帝は必ず終局的滅亡の苦杯をなめることになるだろう」を発表した。(関連記事)

9日の労働新聞は、国防委員会の声明に接した市民の声という形で、「アメリカの終局的滅亡の最後のページをほかでもない米国の地でわれわれの白頭山の銃剣をもって見事に書いてやろう」との記事を掲載。このなかでオバマ氏を以下のように罵倒している。

「国防委員会の声明に接して、オバマのその凶悪なサルのような面を、その場でぶん殴ってやりたい心情だ(原文直訳)」

「ヤンキー(注)帝国の大統領というオバマの口からアオダイショウが出るか、蛇が出るのかも知らずに、我々に害を与えるという妄言を吐き出すのを見たら、彼は理性を完全に失ったことが分かる(原文直訳)」

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その他、「山犬」「米帝野獣」「オバマの群れ」などの罵詈雑言を並べ立てている。

北朝鮮は昨年から、公式メディアを通じてオバマ氏を罵倒しているが、何故このような一国のメディアとしてはあり得ないことが起こるのか。(関連記事

エスカレートする罵詈雑言は確信犯

北朝鮮のメディアは徹底的な検閲を経て公開される。担当者たちはそのなかで、金正恩氏や朝鮮労働党の顔色をうかがいながら記事を書いたり、映像コンテンツを作ったりしなければならない。権力上層部への忠誠心をあらわす「忠誠心レース」から、オバマ氏への罵詈雑言がエスカレートしているのかもしれない。

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しかし、そういったことを差し引いても、この間の北朝鮮メディアの口汚さは看過出来ない。

元韓国大統領の李明博を「ネズミ明博」。国連のマイケル・カービー氏を「同性恋愛の醜聞を残したむさくるしい老いぼれ好色狂」。韓国の朴槿惠大統領に対しては「妓生の旦那に身を任せて他人を謀略にかけて害するずる賢い売春婦」。

最近では、ウェンディ・シャーマン米国国務省政務担当次官を「外交官の仮面をかぶった悪魔」「66歳という老忘期と健忘症に入ったその年齢で何か完全なる意見を出せるというのか」と罵倒。そして今回のオバマ氏に対する罵倒。

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こんな物言いをすれば、諸外国から問題視されるのは子供でもわかる。それにもかかわらず、公式メディアを通じてこれだけの罵詈雑言を浴びせるのは、もはや確信犯といって差し支えないだろう。

とりわけ、金正恩体制になってからは個人の出自、性別、趣向などをターゲットにしているという意味ではヘイトスピーチそのものだ。(関連記事

北朝鮮の罵詈雑言ーヘイトスピーチが生み出す負の連鎖

近年、日本ではヘイトスピーチが深刻な社会問題となっている。こうしたヘイトスピーチは、確信犯的な罵詈雑言からはじまり、ある種の負の連鎖を生み出している。それでも民主国家である日本においては、市民の間から「ヘイトスピーチの負の連鎖」を断ち切るための動きがわきあがっている。

しかし、北朝鮮という閉鎖された社会では、そのような動きは出て来ない。その結果、北朝鮮メディアにおいて罵詈雑言を使うのが当たり前になっているのだとすると、彼らはますます世界の流れから取り残され、劣化し続けるだろう。

デジタル技術の発達とともに、北朝鮮メディアは、過去と比べるとクオリティは格段に上がっている。しかし、肝心のコンテンツが金正恩体制におべっかを使った提灯記事や、人権意識が欠如したヘイトスピーチだけでは、健全なメディアとしての発展は到底見込めない。

なによりも北朝鮮という国家の孤立がさらに深まる。

昨年5月に、北朝鮮がはじめてオバマ氏を人種差別的な表現で罵倒した時、アメリカは当初、公式的な立場で不快感を示した。しかし、それ以後も続いた北朝鮮の「口撃」に対して、アメリカはさほど大きく言及しなくなった。もうすでにオバマ氏は「任期中は、北朝鮮を相手にしない」と見切ったのかもしれない。

2017年にオバマ氏の任期が終わったとしても、アメリカ大統領に対するヘイトスピーチが水に流されるわけではない。「北朝鮮は人権意識が、まったく欠如した国家」というイメージを払拭するためには並々ならぬ努力が必要だ。

北朝鮮の体制の人権感覚の欠如は、今に始まった事ではない。だからといって、いつまでも放置すべきものでもない。恐怖政治で縛られた国民に体制批判の声を上げる自由はないとしても、その恐怖の及ばない場所にいる人々は何らかの意思表示をすべきだ。

ところで、日本の地でヘイトスピーチ被害に遭い、日本の市民のサポートを得てそれを克服しようとしている総連系の在日コリアンの人々は、本国の人種差別表現をどのように思っているのだろうか?

?(※)ヤンキーとは、日本では不良少年の総称になっているが、本来の意味は米国人の俗称であり、場合によっては侮蔑語にもなりうる。北朝鮮では米国を罵倒する時に「ヤンキー」という言葉を使うが、50年代の日本でも反米スローガンとして「ヤンキーゴーホーム!(アメリカ人は帰れ!)」が流行した。

労働新聞/資料写真
労働新聞/資料写真

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記