北朝鮮の体制は首領(金正恩氏)個人の権威、能力、それを支えるシステムにより大きく左右される。思想、資源、外貨などの物質的、経済的な基盤、労働党、人民軍、政府の行政的基盤、国際社会で金正恩体制を支える外交的基盤のすべて適切に維持されなければならない。それらの基盤をすべて運営できる能力が金正恩に求められる。
祖父と父との決定的な違いとは何か
このような視点から金日成、金正日、金正恩を比較するとその違いが容易に理解できる。金日成時代は主体(チュチェ)思想、安定的な外交、計画経済、金日成個人のカリスマなど良好な環境の下でシステムがスムーズに働いていた。金正日時代には経済的基盤が崩壊し大きな危機に瀕したが、他の基盤は維持されていた。
また、中国と韓国が金正日を支援し、2000年代半ばまではアメリカや日本なども支援していた。しかし、今は行政、経済、外交などすべての基盤にほころびが生じている。経済は20年に及ぶ市場化の進行で金正日時代よりは好転したが、金正恩体制の耐久力強化に役立つとは思えない。
北朝鮮の体制は理論的に人民大衆→労働者階級→労働党→核心統治集団→金正恩の順に構築されている。このうち、人民大衆と労働者階級は既にこの体制から離れている。崩壊した主体思想と配給制度に代わって拝金主義と個人の生存競争が人々の心の中に定着した。党と金正恩が飯を食わせてくれるという幻想は既にない。