北朝鮮の金正恩総書記が、ロシアに派遣した工兵部隊を事実上「タダ働き」させていたことを、自らの発言で認めた。
北朝鮮国営メディアによると、13日、平壌の4・25文化会館広場で「第528工兵連隊」の帰国歓迎式が行われ、金正恩氏は式典で演説した。その中で金氏は、「命を懸けて命令を遂行したわが工兵連隊には、いかなる報酬も、対価もなかった。しかし、それに代えられない、この世で最も貴重なものを受け取った」と語った。
ロシア派兵の対価をめぐっては、北朝鮮内部で以前から不満の声がくすぶっていた。派兵された特殊部隊員が、約束された給与の2割程度しか受け取っていなかったとの情報も伝えられ、「プーチンに裏切られた」との不満が出ているとも報じられていた。
今回の金正恩氏の発言は、ロシア派兵の見返りとして期待されてきた経済的・軍事的対価が、実際には存在しなかったことを、最高指導者自らが公然と認めたものと言える。
(参考記事:プーチンが「派兵報酬」払わず金正恩が窮地…「実績乏しい」とロシアが難癖)
金正恩氏は演説で、「わが軍隊は、党と祖国、人民の信頼、それ以外にさらに望むものがあってはならない」と述べ、派兵の見返りを求めるなと強調した。内部の動揺を意識しつつ、無報酬の犠牲を「名誉」や「信頼」といった精神論で正当化する狙いが透けて見える。
歓迎式では、戦死した工兵隊員9人に「共和国英雄」の称号などが授与され、金正恩自身が追悼の壁に献花し、黙想する姿も公開された。国営メディアは、負傷兵や遺族を抱きしめる場面を繰り返し映し出し、最高指導者の“苦悩”と配慮を強調した。
金正恩氏が自ら「報酬も対価もなかった」と語ったことは、内部の不満を抑える狙いがある一方で、ロシアに対し「北朝鮮軍の犠牲を忘れるな」という、いわば“恩を売る”メッセージとも受け取れる。だがそれは同時に、“血盟”を誇示してきた北朝鮮とロシアの関係の裏側に、深い溝が存在することを浮き彫りにした。
結局のところ、命を賭して派遣された工兵部隊に与えられたのは、実利ではなく、抽象的な「最も貴重なもの」という言葉だけだった。
