北朝鮮が5か月ぶりに弾道ミサイルを発射した。10月22日午前、黄海北道中和一帯から東海(日本海)方向へ短距離弾道ミサイル数発を発射。韓国軍合同参謀本部は、飛距離約350キロ、弾頭重量4.5トンの高威力型で「火星砲11-タ-4.5」と推定されている。金正恩氏が2024年9月18日に発射実験を視察しており軍事的には目新しさはないが、政治的には極めて象徴的な「弾道ミサイルメッセージ」である。

発射のタイミングは、10月31日から2日間の日程で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の直前。再選後のトランプ米大統領、防衛力強化を掲げる高市早苗首相、北朝鮮に敵国認定され対話の糸口すら掴めない李在明大統領、それぞれに向け、金正恩は異なる圧力のメッセージを送った。

金正恩氏との会談を望むトランプに対しては、「まだその時期ではない」といったところか。中ロとの関係を密にしている金正恩氏からすれば米朝会談を急ぐ必要は無い。仮に会談が実現すれば、米朝会談を突破口にしたい李在明政権の大きな成果となるが、金正恩氏は、今後の米朝関係において、敵国・韓国の関与・介入は絶対にさけたいだろう。金正恩氏が韓国の誘い水に乗る可能性は極めて低い。

次に日本。高市政権が進める防衛強化政策に対する牽制の意味はあるかもしれないが、今回のミサイル発射は日本海方向ではなく内陸部への発射である。「日本の軍拡を許さない」という示威行動よりも、APECに続く日米会談において「韓国抜き」で北朝鮮問題議論を取り扱えというメッセージが込められているのかもしれない。

そして李在明政権に対しては、明確で強い“拒絶”李在明政権はAPECを機に、日米、そして中国も「北朝鮮非核化問題」に引きずり込もうとするだろう。しかし、韓国が提唱する北朝鮮の非核化に対して、金正恩氏は一貫して拒絶している。

北朝鮮問題に関わる主要国家が一堂に会する国際会議直前に、攻撃可能なミサイルを発射したことは李在明政権の対話・宥和姿勢に対する完全否定であると同時に、足蹴にした形だ。金正恩氏が日米韓に送った異なるメッセージの裏には、日米韓三角同盟に楔を打ち込む狙いがあるようだ。