北朝鮮の朝鮮人民軍は昨年12月1日から今月まで、冬季訓練を行っている。米韓合同軍事演習「フリーダムシールド」の実施を受け、訓練はさらに厳しいものとなっている。
中国との国境に接する咸鏡北道(ハムギョンブクト)の会寧(フェリョン)に駐屯する国境警備隊第27旅団でも同様に訓練が行われているが、あまり順調には進んでいないようだ。
現地のデイリーNK内部情報筋によると、第27旅団では訓練中に倒れる隊員が続出している。
旅団は、緊張が高まる朝鮮半島情勢に応じて、国境警備任務を普段にも増して強化するよう隊員に指示した。隊員たちは、昼間には、戦時状況に備えた戦闘力の判定、政治思想学習、兵営施設点検、夜間には、国境警備と、朝から晩まで詰め込まれたスケジュールに従って日々を過ごしている。
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人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面訓練中だからといって食糧配給が増えるわけではなく、「空腹という敵」との闘いに追い立てられる。さらには充分な休息が取れないため、疲労が累積する。そして、今月15日のことだ。
穏城(オンソン)にある某部隊で、夜間警備を行っていた隊員が気を失って倒れる事故が起きた。共に勤務していた隊員がすぐに上層部に報告したが、返ってきたのはこんな叱責だった。
「戦時状況なのに弛んでいる」
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面そして、適切な措置を取らなかった。倒れた隊員は、命に関わるほどの状態だったが、ときは折しも、上述の米韓合同軍事演習「フリーダムシールド」が行われている最中だった。それもあって、上層部は精神論をぶちかましたのだ。
「穏城では訓練中に倒れる兵士が1日に3〜4人いて、言葉も発せないほどに衰弱した者もいるが、指揮官たちは『今は戦時だ、油断すれば死ぬぞ』『精神が弛んでいるからそんなことになるのだ』という精神論を繰り返すばかりだった」(情報筋)
旅団では先月、訓練中の隊員が民家に押し入ったが、民間人に逆襲される事件が起きるなど、窃盗や強盗が相次いでいる。空腹に耐えかねてのことだ。
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軍に配給される食糧は、農場で生産されたものが当てられるが、軍に食糧を供出しても儲からないことを嫌った農民は、穀物を隠匿するなどして、その量を少しでも減らそうとする。また、輸送過程でも横流しが横行しており、一部のエリート部隊を除いて、慢性的な食糧不足に苦しめられている。
(参考記事:野犬に襲われ無残にも…北朝鮮「21歳女性兵士」の悲劇)少し前のものになるが、焼き肉を前にむせび泣く兵士を描いた絵が話題となった。故金正日総書記の配慮に感動していることを伝えるためのプロパガンダ用の絵だったが、朝鮮人民軍の食糧事情の劣悪さを示すものとして全世界の嘲笑を買ったのだ。
(参考記事:【写真コラム】「焼き肉」を前に感動の涙を流す北朝鮮の兵士)米帝や傀儡韓国を戦うべき兵士が、飢えと戦っていることを知る地域住民からは、こんな声が上がっている。
「人を生かすことを考えず、精神論を繰り返すばかりで呆れて物が言えない」
「軍隊があのザマで、本当に戦争が起きたら誰が戦うのか」
民間人の食糧事情も決していいものではなく、空腹を動機とする窃盗、強盗が相次いでいるが、それでも軍人に比べれば幾分マシだ。そうとは言え、慢性的な食糧難は、金正恩総書記が、穀物や調味料など多くの食料品を事実上の専売制とする政策を打ち出してから、余計にひどくなっている。
別の情報筋によると、北朝鮮は今年1月からコメ、トウモロコシ、小麦粉の輸入量を増やしているが、その恩恵は末端の兵士のところに届いていないようだ。