国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)と、韓国のNGOの転換期正義ワーキンググループ(TJWG)は5日、「新型コロナ関連の抑圧の実態に関する脱北者の証言」という内容の文章を公開した。これは、2020年から2023年の間に脱北した3人の男性と5人の女性と行った面接調査に基づくものだ。
黄海南道(ファンヘナムド)碧城(ピョクソン)で米屋を営み、2023年5月に脱北したキム・イルヒョクさんは、2012年から2019年までは一度も見なかった公開処刑が、2020年から急に増えたと証言した。
「2020年には2カ月に1回の割合で、2022年と2023年にも2カ月に1回、毎回3人が銃殺されるのを見ました」
(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた)北朝鮮政府は2020年1月、新型コロナウイルスの流入を防ぐとして国境を封鎖し、貿易も停止させた。そのため、ただでさえ深刻だった食糧不足に拍車がかかり、飢えによる犯罪を増加。当局がそれを抑え込むために、公開処刑を頻繁に行ったとイルヒョクさんは証言した。
「食糧が乏しくなり、一人暮らしの老人の家に忍び込み、食糧やカネを盗もうとして(見つかり)刺殺したり、自転車に乗って通りすがった人から食糧を盗んだりする凶悪犯罪が増加しました。食べ物がなく、強盗が頻繁に発生するようになりました。当局は恐怖を煽り、住民を統制するためにこのような事件を利用したのです。私が見た公開処刑の9割は、この種の凶悪犯罪によるものでした」
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面一方、日本の感覚では「凶悪」とは言えない事件で極刑を下された例もある。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、穏城(オンソン)郡の協同農場で2020年11月、飼育していた牛が忽然と姿を消した。
農場の担当者は、生活苦で追い込まれた近隣住民に盗まれたものと思い、近隣の家々の様子を見て回っていた。すると、ある家から肉の匂いがするのに気付いた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面安全員(警察官)と共にその家に踏み込み、倉庫を開けると、中からは大量の牛肉が出てきた。また、オンドル(床暖房)の焚き口からは、牛の骨が発見された。
牛を盗んで食べたことを認めた40代男性は、その場で安全部に逮捕された。
(参考記事:北朝鮮女性を追いつめる「太さ7センチ」の残虐行為)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面過酷な取り調べを受けた男性は、国境封鎖の影響でギリギリの生活を送っていたが、ついに食べ物が尽きてしまい、にっちもさっちもいかなくなって牛を盗んで食べたと自白。最終的に処刑されたという。
北朝鮮で「牛」は生産手段扱いとなり、国家財産だ。個人の牛の所有、屠畜、販売は禁じられており、違反者は単なる経済犯ではなく政治犯扱いとなる。そんなことは北朝鮮国民であれば誰でも知っていることだが、それにもかかわらず「禁断の味」に手を出してしまうほど、人々は追い詰められていたのだ。