社会主義経済システムでは一般的に、労働者の受け取る給料は、働いても働かなくても給料は同じになる。貧富の差をなくし、病気などの理由で働けない人でも生活が保証される反面、どれだけ頑張っても給料が上がらないため、労働意欲が低下しがちだ。
デイリーNKの内部情報筋が撮影した、7月末の水害の被災者が入居する住宅の建設現場の写真には、何もせずにボーっと立っているだけの人々が写り込んでいる。彼らは無給の建設ボランティアである「突撃隊」の隊員たちで、一所懸命働いたところで何の得にもならないから当然のようにサボっているのだ。
また、カネを支払って勤労動員や仕事をサボる事例もある。それが巻き起こした不満の声を、黄海北道(ファンヘブクト)のデイリーNK内部情報筋が拾い上げた。
(参考記事:「若者14人が墜落死」金正恩”絶対命令”の現場写真)川向うは韓国という立地にある黄海南道(ファンヘナムド)延安(ヨナン)の農場に勤める40代のキムさん(仮名)は、家族を食べさせるために毎日農場に出て、率先してつらい仕事を行っていた。秋の収穫後に行われる決算分配で、それに応じた報酬を得られると期待してのことだ。
10月15日に決算分配が行われたのだが、彼は非常にショックを受けた。受け取ったのはコメ150キロ、トウモロコシ100キロ、小麦50キロだった。重さだけ見るとかなりの量に思えるが、いずれも殻つきのもので、それを取り去ると50キロも減ってしまう。3人家族の1年分の食糧としては、全く足りない。
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絶糧世帯とは、食べ物もそれを買うカネも底をついた世帯のことを指す。
(参考記事:「死ぬやつは死ね。という政策なのだ」北朝鮮の食糧難が末期症状)北朝鮮では、労働者の場合、1日あたり600グラム、1カ月で18キロの食糧を配給されることになっている。扶養家族はその半分程度だ。1年で430キロ以上受け取れることになる。一方で農民の場合、その時の収穫状況に応じて量が決まる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面キムさん一家は、妻が自宅の畑で取れた野菜を市場で売っているのを除けば、収入の多くを農場での分配で得ている。
作業実績を示す工数(労力工数)は、通常なら300だが、キムさんは600に達した。これは1人で1ヘクタールの畑を任されている計算になるそうだ。工数は、決められたノルマを達成すれば1日あたり1が与えられる仕組みになっている。ところが、120工数分の配給しか得られなかったのだ。
これに怒ったキムさんは、分組長のところに乗り込んで、こう喚き散らした。
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それでも怒りが収まらないキムさんは、こう続けた。
「分組長と仲の良いあいつには毎日おつかいと言って時間を与えて、自分と同じ工数を受け取りやがった」
この「あいつ」は、肥料や農業機械の部品を自費で購入して分組長に渡したおかげで、1週間に2〜3日しか農場に出てこなかった。つまり、金品を渡してサボっていたということだ。
分組長は、「すべて規定通りだ」「文句を言うな」とキムさんの口を無理やり塞いだ。彼は結局、引き下がらざるを得なかったようだ。
(参考記事:「朝鮮王朝時代と何が違うのか」多額の借金に苦しむ北朝鮮の農民)キムさん一家が餓死を免れるには、借金をするしかない。より正確には現金の代わりに穀物を借りるのだが、秋の収穫後に2倍にして返さなければならず、自転車操業に陥ってしまう。
「今すぐ食べるものがなければ借金をしなければならないが、秋になっても返済能力のないキムさんのような農民は、苦しい生活の悪循環に陥り、生活はさらに苦しくなる」
「だから、農場で一所懸命働く農民がいないのだ」(情報筋)
キムさんはこのような現状を知ってか知らずか、熱心に働いてむしろ生活が苦しくなってしまったのだ。農場の仕事そっちのけで自宅の畑に力を入れて、取れた野菜を市場で売ったほうがよほど生活の足しになる。
旧ソ連や中国は、とっくの昔に集団農業をやめ、農民に田畑を与えた。中国農業年鑑によると、農業生産量は、人民公社(集団農場)が解体された1983年以降、一貫して伸びを示し、10年ちょっとで1億トン以上増加した。北朝鮮の人口にすると200万トンに相当する伸びで、穀物の不足が解消する計算になる。