親と家を失い、路上で寝泊まりするストリート・チルドレンのことを北朝鮮では「コチェビ」と呼ぶ。彼らは首都・平壌にいることそのものが違法だ。革命の首都のイメージを乱すからだという。障がい者も同じような理由で平壌から追放された。
平壌市民には、コチェビを発見すれば安全部(警察署)や洞事務所(末端の行政機関)に通報することが求められているが、それに反して、コチェビを匿い、労働力として活用しようとする動きが現れている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
(参考記事:障がい者の「強制隔離」を実行した北朝鮮…抹殺も検討)先月末に平壌へ出張した咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、郊外の西城(ソソン)区域の長慶一洞(チャンギョンイルトン)の親戚の住むマンションに6日間滞在した。そのマンションには年の頃12歳から15歳くらいの3人のコチェビが出入りしていた。
親戚に事情を聞いてみたところ、こんな答えが返ってきたという。
「地方からやってきたコチェビをマンションの地下室で住まわせる代わりに、人民班(町内会)の様々な社会的課題(動員)や作業をさせている。管理は人民班長(町内会長)が行っている」
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面人民班長は住民に呼びかけ、古着や残った食べ物を集めて、コチェビに分け与えている。彼らがきつい動員に出かけた場合には、みんなで少しずつ現金を持ち寄って、3人に渡すこともあるとのことだ。
一方で3人には「泥棒をしない。他のコチェビを連れてこない。昼間はできるだけマンションの周囲をうろつかない。トラブルを起こさない」などの誓約をさせているという。
各人民班に下された社会的課題を行う場合には、他の地区の住民がいないので、問題なく彼らを連れて行って仕事をさせる。早朝の動員には親でなく子どもが行く場合が多いが、コチェビにきれいな服を着せて、代わりに行ってもらう。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ただし、他の人民班と共同で行う作業の場合、彼らの存在がバレてしまうおそれがあるため、注意が必要だ。もしバレればコチェビは登録された元の居住地に送り返され、人民班長はあれこれ追及される。それでも、おおごとになる前にコネやワイロでもみ消すので問題になることはあまりないようだ。
コチェビを雇っているのは、この人民班だけではない。
別の情報筋の兄が住む、龍城(リョンソン)区域のマンションの地下室には、推定14歳のコチェビが2人住んでいる。彼らは、人民班の人がやりたがらない、ゴミ捨て場の掃除、ゴミの処理、雪かきなどを行っている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「人民班に課された面倒な仕事をコチェビがやってくれるので、彼らの存在を嫌がる人は誰もいない」(情報筋)
元来、コチェビの「ねぐら」と言えば市場やゴミ捨て場、駅前の片隅の雨風と寒さをしのげるところが一般的なので、地下室は非常に快適なところだろう。また、優しい住民の配慮で衣食に困らず、連行されるリスクも少ないなどのメリットもある。
また、住民の立場からも、コチェビを保護することはメリットが大きい。動員があまりにも多いからだ。何よりも助かっているのは人民班長だ。
「社会的課題と作業で人民班の人々を動員しようにも難しいので、人民班長は窮余の策としてこのような手法にたどり着いたようだ」(情報筋)
(参考記事:北朝鮮の中高生「残酷な夏休み」…少女搾取に上納金も)
本来、労働に対しては相応の代償が支払われてしかるべきだが、当局は一銭たりとも支払わないばかりか、交通費や食費まで動員される人々に転嫁する。かつてなら当たり前のものと受け止められていた動員だが、市場経済の進展や権利意識の伸長に伴い、タダ働きを嫌う傾向が強くなっている。
(参考記事:「女子生徒の学習意欲が低下」北朝鮮、金正恩の単純労働強制で)当局は、市場に対する抑制策を取ると同時に、配給制度に似た食糧供給システムを復活させるなど、北朝鮮という国のシステム全体がそれなりにうまく機能していた1980年代以前のものに戻したいようだ。しかし、2020年代を生きる北朝鮮の人々の考え方、行動様式を40年前に戻すことは不可能だろう。