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1932年3月に出された朝鮮総督府農事試験場彙報には、作物別の栽培地域が記された地図が掲載されている。例えば、ジャガイモは咸鏡道(ハムギョンド)、燕麦は現在の両江道(リャンガンド)、そして小麦は黄海道(ファンヘド)と平安南道(ピョンアンナムド)で集中的に栽培されていた。

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一方で稲はほぼ全土で栽培されていたものの、慶尚道、全羅道、忠清道で9割以上が改良された品種が栽培されていたのに対して、平安北道では5%、平安南道では18%に過ぎなかった。現在の北朝鮮に当たる地域では、気候のせいで、生産性の高い稲作は期待できないと判断されていたようだ。

それでも、地域を問わず朝鮮民族はコメを最上のものと考える。故金日成主席の生前の言葉にもそれが現れている。

「人民が米のご飯に肉のスープを食べ、絹の服に瓦の家に住めるようにする」

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しかし、それが達成されないまま、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」が北朝鮮を襲った。息子の故金正日総書記は、コメではなく、救荒作物であるジャガイモやトウモロコシの栽培を進めた。いずれも北朝鮮で広く栽培されてきたものだ。

(参考記事:金正日氏「コメに肉のスープという父金日成氏の遺言を達成できていない」

そして、孫の金正恩総書記は、トウモロコシの栽培面積を減らし、小麦、大麦、水稲、陸稲への転換を図る方針を表明した。「先祖返り」「祖父の影響力からの脱却」「食の多様化への対応」など、様々な解釈が可能だろう。

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欧州宇宙機関(ESA)が今年3月に撮影した北朝鮮の5か所の衛星写真を分析した結果、小麦、大麦の作付面積が5割近く増えたと米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

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ESAの衛星「センティネル2」が撮影した5ヶ所の衛星写真を比較、分析した結果、昨年同月比で平均46%、小麦、大麦の作付面積が増加したことがわかった。

2023年3月と2024年3月の小麦、大麦栽培面積の変化

昔から小麦の栽培が盛んだった平安南道の順川(スンチョン)市では63%、平壌市三石(サムソク)区域では20%、黄海南道(ファンヘナムド)甕津(オンジン)郡では64%増加した。

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東海岸の咸鏡南道(ハムギョンナムド)金野(クミャ)郡でも、103%も増加した。暖流の影響で緯度の割には温暖で、三方を山に、一方を海に囲まれた地理的要因が関係している可能性が考えられる。

一方、平壌のすぐ南に位置する黄海北道黄州(ファンジュ)郡ではほとんど増えていない。要因は不明だ。

北朝鮮は2020年1月から昨年夏まで、新型コロナウイルスの国内流入を恐れ、国境を閉鎖した。そのあおりで肥料や営農資材の輸入が困難となっていたが、今年は輸入が順調に行われている。また、冬の間に降った雪の量が例年より多かったため、毎年のように苦しめられている日照りと水不足は多少緩和されるものと思われる。

それでも依然として北朝鮮の食糧事情は不安定だ。食糧のサプライチェーンを完全に国の手に取り戻そうとして、市場の機能を大幅に制限する政策を取るようになったため、多くの国民が現金収入を得られる場を失い、たとえ充分な量が売られていたとしても、買う金がなくて手が出せないのだ。

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