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北朝鮮北部、両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市の教育部は、市内の初等学院、中等学院の子どもたちを対象にした個別談話(個別聞き取り)、集体談話(集団聞き取り)を、今月に入って慌てて行った。

初等学院、そして中等学院とは、孤児を収容し教育を行う小学校と中学校に相当するが、聞き取り調査が行われた背景には、彼らの間に漂う絶望感があった。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

まず、集体談話が今月初めに行われた。どういうわけかコミュニケーションがうまく図れないとの理由で、直接話すのではなく、思ったこと、不満に感じていることを紙に書き、無記名で提出する方式でなされた。

用紙に書かれた内容を呼んだ市の教育部のイルクン(幹部)は、非常に驚いた様子だったという。いずれも孤独さ、寂しさ、空腹、そして未来への絶望を訴える内容だったからだ。

「虚しさを感じる」
「学院でこのように生きていてもしょうがない」
「親も面倒を見てくれる人もいないので、出世する可能性もない」

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また、卒業を控えた子どもは、こんな不満を書き綴った。

「学院を卒業して社会に出れば、炭鉱や農村、突撃隊(半強制の建設ボランティア)などに配属され、また集団生活をさせられる。生きていても嬉しいことも気晴らしになることも何もない」

一方、学院の待遇の悪さを訴える子どももいた。

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「先生は、私たちの心の声に耳を傾けようとせず、殴ったり罰を与えたりするので、もどかしく悲しい」

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北朝鮮は、コネの太さが物を言う社会だ。親が金持ちや幹部であるか、あるいはそんな人との太いパイプを持っているなら、教育、兵役、職業選択、出世、商売など、人生のあらゆる面において下駄を履かせてもらえる。貧しい家の出であっても、親を通じた何らかの繋がりが役に立つ。

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ところが孤児の場合は、それが一切存在しないのだ。

学院では冷遇され、卒業後には誰も行きたがらない炭鉱や農村、突撃隊に行かされ、怪我をしたり死んだりしても、補償を要求する家族のいない都合のよい労働力としてこき使われる。将来を夢見て全能感にあふれる小学生、中学生が、社会の厳しい現実を知って、絶望しているのだ。

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本来なら市の教育部は、毎年末に初等学院と中等学院に出向いて、子どもたちに対する生活指導を行うのだが、コロナで3年間実施できなかった。外部の目に触れない状態に置かれた子どもたちはすっかりやせ細り、未来への不安を抱えるようになってしまったのだ。その様子を見たイルクンたちは、心が重くなったという。

また、コロナ禍の3年間の苦しい生活を耐え抜けず、学院から脱走してコチェビ(ストリート・チルドレン)になった子どももいることや、学院の教師に対する教育、精神修養が不足しているも明らかになり、イルクンたちは頭を抱えている。下記のような「公式の物語」から逸脱しているからだろう。

学院などの生徒と子どもに重ねて施される朝鮮労働党の恩情

【平壌10月10日発朝鮮中央通信】朝鮮労働党創立68周年に際して、万景台革命学院、康盤石革命学院、南浦革命学院などの革命学院と各地の育児院、愛育院、初等学院、中等学院の生徒と子どもが各種の衣服と食品を受けた。
孤児の悲しみも知らず国の宝に、担い手に頼もしく育つことを願う母なる朝鮮労働党の恩情にまたもや恵まれた生徒と子ども、教職員は限りないありがたさにこみ上げる激情を禁じ得なかった。

革命学院の生徒と教職員は、日を追って増すこの恩恵は、金日成大元帥と金正日大元帥の念願を実現している朝鮮労働党の大海のような愛の精華であると口をそろえて自分らの心情を吐露した。

各地の生徒と子どもは、今日のこの幸福を胸に刻みつけて少年団組織生活と学習にもっと励んで国の立派な人材になる決意を表明した。---

これは、2013年10月10日付の朝鮮中央通信の記事だ。金正恩総書記は「次世代への愛」を掲げ、育児院から中等学院に至る、孤児院と教育を一体化させた施設を全国に建設させ、「自分こそ慈悲深い親」というアピールに余念がない。

(参考記事:金正恩の知られざる「毒親」ぶり…孤児を都合よく使い捨て

孤児たちが未来に絶望しているとなれば、市教育部のイルクンたちは「金正恩氏の命令を適切に執行できなかった」として重い処分を受けることとなる。金正恩氏が無謬の存在である以上、北朝鮮におけるすべての問題は、このように中間幹部や下級幹部のせいにされる。

イルクンたちは、自分のクビが飛ばされることを恐れて、一所懸命に子どもたちのケアに当たるだろう。しかし、それも卒業までの話だ。孤児たちが社会に出て冷遇される現実には何ら変わりはなく、親もカネもコネも持たない孤児たちは、社会の底辺層に組み込まれていく。