金正恩の「余計なひと言」で今年も吹き飛ぶ北朝鮮農業

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北朝鮮の南西の端から北東の端までの対角線の長さは、約700キロ。西には黄海、東には日本海があり、国の中心を大きな山脈が貫いている。気候も地域によりまちまちだ。

当然、農業のやり方も地域によって異なって然るべしだが、集団農業を採用している北朝鮮では、現地の事情を無視して中央からの命令に従い、地域一斉に収穫することになっている。当然、地域の農業には混乱が起きる。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

(参考記事:農民に8年前の30倍の堆肥生産ノルマを押し付ける北朝鮮の農業

北部の両江道(リャンガンド)では、毎年9月5日から秋の収穫が始まる。しかし、現地の情報筋によると、内閣の農業省は次のような指示を全国の農場に下した。

「蒸し暑い天気につき、秋の収穫を遅らせること」

収穫は、9日の共和国創建日(建国記念日)を過ぎてからということだったのだが、どういうわけか4日午前になって急に、「翌5日から収穫を始めよ」「機関や企業所は、協同農場に支援労力を派遣せよ」との指示を下した。

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突然の指示に慌てふためく両江道農村経理委員会や各市、郡の農村経営委員会、そして協同農場。事前の調整もなく急に指示が下されたため、現場は大混乱となった。

調べてみると、どうやら金正恩総書記が4日の朝、急に農業省に「すぐに収穫を始めよ」との指示を下したためだとわかったとのことだ。

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農場での収穫支援に当たる側にいる別の情報筋は、勤め先の工場に急に人員を送り出せと命令が下されたが、対応できなかったと述べた。それというのも、多くの従業員は、国家建設(国レベルで行う建設プロジェクト)に突撃隊(半強制の建設ボランティア部隊)として送り出されており、残りの人員は建国記念日の祝賀行事に駆り出され、手の空いている人が誰もいなかったからだ。

現場では、こんなに早く収穫が始まるとは誰も思っていなかったようだ。

「今年は今(6日)に至るまで残暑が続いていて、自分の畑を持っている人もまだ収穫を始めていない」(情報筋)

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収穫を始めるには、実がなり茎が黄金色になってから始めるのが基本中の基本だが、現地ではまだジャガイモ、大豆ともに青いままだという。このまま収穫を始めれば、却って収穫量が減ってしまうのだが、金正恩氏は、他の地域より収穫時期の早い両江道が手本を見せてこそ、他の地域でもスピードアップが期待できると、現実を完全に無視して勝手な思い込みで収穫開始を指示したのだった。

そんな奇怪な「鶴の一声」であっても、スルーするわけにはいかない。金正恩氏の命令に背いたとなれば、政治犯に問われ、管理所(政治犯収容所)送りにされかねないからだ。

収穫量が減っても、農場幹部、地方政府の農業部門の責任を取らされることになる。もちろん、「金正恩氏の命令のせい」などとは決して言ってはならない。「すべて自分が悪かった」と責任を丸かぶりするしかないのだ。

(参考記事:北朝鮮で「人望ある幹部」たちのクビが飛んでいる

かくして、能力のある人が極めて理不尽な理由でクビを切られていく。こんな歪んだ体制では、農業のみならず、経済全般の発展は期待できない。

ちなみに、両江道の両隣の慈江道(チャガンド)と咸鏡北道(ハムギョンブクト)では今月中旬、他の地域では来月初旬から一斉に収穫が始まることになっている。

(参考記事:責任は現場に押し付け…北朝鮮・繊維工場での爆発事故