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北朝鮮は近年、過去30年間になし崩し的に進んでしまった市場経済化を押し留め、かつての社会主義計画経済、全国的な配給システムを復活させようとする動きを見せている。

しかし、現実はそううまくいかないようだ。個人の所有が禁じられた生産設備を国営企業が個人に貸し出して、利益の一部を賃料として受け取るやり方が再び起きつつある。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

両江道(リャンガンド)の情報筋によると、金正淑(キムジョンスク)郡の邑(郡の中心地)にある食料品工場は今月初め、所有している勝利58型2トントラックと10トントラックを個人に貸し与えた。

名義は食料工場のままにして、運行する権利を個人に貸し与えるのは、資金難に直面した工場の支配人の決断だ。トラックを借りたのは地元でトンジュ(金主、ニューリッチ)として知られる30代と40代の女性で、除隊軍人の男性ドライバーを雇い入れて、タクシーとして運行するという。

北朝鮮では一般的に、車両の運転は男性が行う。女性には原則的に、工場の敷地内のクレーンの運転などを除き、一般道での運転免許は与えられない。トラックを借りた女性が、男性ドライバーを雇い入れたのはそのような理由からだ。

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(参考記事:北朝鮮のオヤジは「タクシー運転手」が夢の職業

ちなみにレンタル料は毎月20万北朝鮮ウォン(約3400円)。それにプラスして、ガソリンとタイヤ、部品は自首調達することが求められる。

平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋も、成川(ソンチョン)郡の機械工場が、10トントラック1台を、工場内の運輸職場(部署)の40代の男性ドライバーに貸し与えたと伝えた。このドライバーの妻がトンジュだという。

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工場は、人を運んでも荷物を運んでも構わないとして、毎月30万北朝鮮ウォン(約5100円)のレンタル料を納めることと契約条件とした。地域間で荷物の輸送を行った場合、商品の単価により異なるが、少なくとも84万北朝鮮ウォン(約1万4280円)の儲けになるという。

一般的な4人家族の1カ月の生活費は50万北朝鮮ウォン(約8500円)と言われており、それだけでは生活には困らなくとも大した儲けにはならないが、夫婦は、東海岸の清津(チョンジン)まで出向いて、魚を仕入れて地元の市場で売りさばいて儲けているという。

この工場がトラックを貸し出した理由は、このままでは今年下半期の計画(ノルマ)を達成できないからだ。

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原材料を運んで、製品を生産し、それを運ばなければならないが、そのために必要なガソリンを得るための収入がないのだ。そこで、トラックなどの設備を貸し出して、その賃料で生産を行ったり、或いは行ったことにしたり、形式上ノルマを達成したことにするのだ。

生産設備、場合によっては工場をまるごと貸し出して、個人業者に製造を行わせ、賃料を得る場合もあった。業者は人を雇い入れ、国営企業よりはるかに多い給料を支払うなど、資本主義の萌芽というべき現象も起きていた。

(参考記事:北朝鮮、国営工場の一部を個人製造業者にレンタル

それを嫌った当局は、設備や名義の貸し与えを禁じる措置を取り「資本主義の芽」を摘むことに躍起になっていたが、過去30年間にわたって続けられてきた慣習を崩すことは難しい。また、工場幹部は、ノルマが達成できなかった場合、何らかの処罰を受けるため、それを恐れて、旧来のやり方で対処するのだろう。

そもそも、社会主義計画経済自体が、天候、トレンドなどによる需要の変化に対応できず、必要なものが製造されず、不必要なものが大量に製造され、深刻な物資不足を招いた。その非効率さから、もはや全面的に施行している国はどこもない。北朝鮮当局の目指すところが、全面的な計画経済への復帰なのか、その要素を一部取り入れた形なのかは、未だ明確ではないが、いずれにせよ、成功は難しいだろう。

(参考記事:北朝鮮が自動車の「個人所有」に対する摘発を強化