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北朝鮮で「8.3」と言えば、偽物、安物など意味を持つ言葉だ。

故金正日総書記は1984年8月3日、軽工業製品展示会で廃材をリサイクルした人民消費品(生活必需品)の製造を指示した。それで作られたものを「8.3製品」と呼ぶようになったが、質が悪いものが多かったことから、ネガティブワードとして使われるようになり、そこから様々な言葉が派生した。

例えば、「8.3ジル」とは、職場にワイロを支払い、本来は違法行為である無断欠勤に目をつむってもらい、できた時間で商売をすることを指す。

今日取り上げるのは「8.3夫婦」という言葉だ。あたかも「仮面夫婦」という意味を持っているのかと考えてしまうが、実はこれ、籍を入れていない事実婚状態にある夫婦のことを指す。事実婚を見る北朝鮮当局や社会の目が反映されたものと言えよう。そんな「8.3夫婦」に対して、当局は取り締まりに乗り出すという。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、定州(チョンジュ)市安全部(警察署)が、先月から8.3夫婦に関する調査に乗り出したと伝えた。全国的には2月から行われているが、社会安全省(警察庁)が2月22日に発表した布告文「社会主義制度に悪意を持ち、反党的、反革命的行為を行う者を懲罰する」に基づくものだ。

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布告では、強盗、強姦、子どもの誘拐、党や政権機関のイルクン(幹部)やその家族に対する暴力行為、反政府的な投書、落書きと並べて、事実婚を犯罪としている。

北朝鮮の結婚法11条は「結婚は身分登録機関に登録して法的に認められ保護を受ける。結婚登録をせずに夫婦生活はできない」と明示している。

社会安全省は事実婚の夫婦に対して、2月22日から3月22日までの間に自首するように呼びかけた。しかし、「そんなものまで調査するのか」と鼻で笑われ、自首する者はほとんどいなかった。そのため、先月から調査を始めたという流れだ。

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摘発された場合、事実婚の期間が1年以内の場合は労働鍛錬刑3カ月、3年以上に及んでいる場合は、2年以上の労働教化刑に処すという。

平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は、各町内の人民班長(町内会長)が、各家の居住者の公民証(身分証明書)を確認し、結婚していないのに同棲している場合には、安全部に通報していると伝えた。

この情報筋が住む人民班には25世帯が済むが、うち4世帯が事実婚で、ひとつの人民班に2〜3世帯の事実婚夫婦がいるのが平均的。その割合は、規模の大きな都会ほど多いという。

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北朝鮮の女性政策に詳しい韓国の東国大学のユン・ボヨン教授によれば、北朝鮮では経済悪化のしわ寄せが女性に行ったことで、事実婚が増えたという。

男性は国の機関や国営企業など、何らかの職場に配属され勤めることが義務化されている一方で、女性は必ずしもそうではない。国の機関や国営企業はまともな給料が払えないため、市場で商売する女性が一家の生計を立てているケースが多いのだ。

子どもができると育児に時間を取られ、その分商売ができなくなり、収入が減ってしまう。そんな負担を嫌って、子どもができるまでは事実婚の状態でいようというものだ。

(参考記事:北朝鮮でも深刻な若者の晩婚化と非婚化、そして少子化

また当局が少子化対策として、離婚を以前にもまして難しくしたことも一因だ。下手に結婚をして配偶者に問題があっても、離婚が認められるところか、離婚を申し立てたことで処罰を受けることすらあるのだ。

(参考記事:「別れるなら吊し上げ」金正恩、離婚望む女性に過酷な仕打ち

結婚法
第2条 結婚は家庭形成の基礎である。国家は結婚を法的に保護する。
第3条 家庭は社会の基礎生活単位である。

当局には、家族を「国の基礎」と定めることで監視をしやすくする目的もあり、それを乱す事実婚は「腐った資本主義の生活文化」であるとして、凶悪犯罪扱いしているわけだ。

上述の通り、離婚を困難にしたり、経済が悪化したりしたことで、結婚を避けようとする空気が広がっている。それに伴う人口減少も著しい状況になっていると伝えられているが、だからといって締め付けを強化すれば結婚する夫婦や子どもが増えるわけでもない。

何よりも必要なのは、経済的な余裕が持てるように安心して商売ができる環境づくりと、育児と教育のための環境整備だが、北朝鮮のやっていることはむしろ逆だ。異次元ならぬ低次元の少子化対策なのだ。

(参考記事:子どもの数が10年で半分に…深刻なレベルに達した北朝鮮の少子化