ゆりかごから墓場まで、思想教育漬けにされる北朝鮮国民。もちろんそのすべてを信じているわけではないが、「とりあえず思想教育」という発想からは離れられないようだ。それは、最近増えているという離婚についてもだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、中央から今月25日、離婚を望む者に対して思想教育を強化せよとの指示がくだされた。
同様の指示は度々下されている。金正恩総書記は昨年3月、「離婚する者は社会の混乱を招き、社会主義生活様式に反する者とみなせ」と指摘し、昨年9月、離婚を望む女性に対する思想教育を徹底し、従わなければ思い知らせよとの指示が下されている。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
しかし、今年になっても離婚は減らず、朝鮮労働党中央委員会(中央党)が、改めて離婚を防ぐための対策を取れと指示を下したとのことだ。
(参考記事:「思想教育で離婚を撲滅せよ」という北朝鮮の的はずれな政策)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
中央が各地の朝鮮社会主義女性同盟(女性同盟)に下した解説談話資料は、「離婚する現象を徹底的になくし、社会の細胞である家庭を仲睦まじくしていこう」とし、母親、主婦、妻としての本分を尽くし、党組織や勤労団体が、集会または個別の形で思想教育を行い、離婚を防ぐよう指示した。
このあたりに、北朝鮮の持つ旧態依然としたジェンダー観と、経済的主体として活躍する現在の北朝鮮女性の現実の乖離が表れている。
離婚の理由として最近最も多いのは、経済的なものだという。これそのものがすでに差別だが、女性は男性と異なり、必ずしも就職することが義務付けられていない。女性たちはそれを逆に利用して、市場で商売をして、全く稼げない男性に成り代わり、一家の生計を担ってきた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面だが、極端なゼロコロナ政策で貿易がストップし、品物が入荷しなくなり、商売あがったりとなった。そして、家族を養う重圧に耐えかねて離婚を選ぶ人が多いようだ。ともかく離婚を嫌う北朝鮮は、離婚を申し立てる人に懲役刑を課すという無茶苦茶な対策を打ち立てたが、それですら効果が上がらなかったようだ。
(参考記事:北朝鮮で増加する一方の離婚対策は「懲役刑」)中央は「経済的な困難を言い訳に、不当な条件と口実で離婚を申し立てる者を把握し、組織が思想闘争(吊し上げ)を行え」「子どもの躾を怠ったとして、離婚を申し立てた者の親の個人情報も集会で晒せ」などと言った指示を下した。
両江道(リャンガンド)の情報筋は、各機関、工場、企業所は従業員の家庭不和について調査を行い、離婚の多い組織の幹部は、「従業員の家庭を管理ができていない」として、責任を問うとの中央からの指示があったと伝えた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面朝鮮労働党恵山(ヘサン)市委員会の指示に基づき、市内各地域の女性同盟は、主婦を対象として、離婚は党の路線と方針に反する、なんとしてでも離婚をなくさなければならないとの講演会を開いた。
参加させられた住民からは「生活があまりに苦しいから家庭が破綻するのだ」として、食糧難には無策なのに、離婚の責任を女性に押し付けてばかりの国のやり方を批判している。
北朝鮮の実際の人口は公式発表より少ないと言われており、急速な少子化、人口減少の対策として、離婚を無理やりできないようにしているが、その結果は非婚化、そしてさらなる少子化として返ってきている。
(参考記事:北朝鮮の若者の間で急増する「結婚せず子どもも産まずに同棲」)