北朝鮮第2の都市、咸興（ハムン）に隣接する栄光（ヨングァン）。地域の8割を山が占めており、谷沿いの狭い土地で細々と農業が行われている貧しい地域だ。
当然、昨今の食糧難に住民は苦しめられており、食糧の蓄えが底をついた「絶糧世帯」も続出している。そんな中、飢えとの闘いに疲れた老夫婦が命を絶った。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
（参考記事：「ペットの犬を掘り返し食べた」飢える北朝鮮国民も驚愕の事件）栄光で暮らしていた60代の老夫婦は、本来なら年老保障（年金）を受け取り、悠々自適の老後を楽しむはずだが、それは60歳まで国営企業や機関に勤めていた人に限られ、夫婦は受け取り対象ではなかったため、道端で露天商をしながら生計を立てていた。
コロナ禍で、当局の露天商に対する取り締まりも強化され、夫婦は生活費を稼ぐ術を失ってしまった。子どもたちも同様に食糧難に苦しんでおり、頼ることもできなかった。若い人なら泥棒でもご禁制品の密売でも何でもやって何とか生きて行けても、老人には到底無理な話だった。
（参考記事：「栄養失調の子どもに粥だけでも…」すがる女性に強制労働の冷酷非情）年金をもらっている人とて、生活が苦しいことに変わりない。毎月の年金で買えるコメはせいぜい200グラム。食糧配給はほとんどなく、無料であるはずの医療も、医師や看護師にワイロを支払わなければ受けられない。
人気記事：「女性１６人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面夫は今年1月、結核にかかったが、日々の糧に事欠く状況で、病院に行く余裕などない。夫の病は悪化する一方で、看護する妻も疲れ果てていた。
（参考記事：怒れる北朝鮮老人の訴えで歯科技工士３人が逮捕された理由）結局、夫婦は自ら命を絶った。
このように食糧難に苦しむ老人は至るところに存在し、数日間何も食べられず横になっているだけの人も。そんな中で起きた今回の事件に、地域住民は気の毒だ、もどかしいという反応を示していると情報筋は伝えた。
人気記事：「女性１６人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面食糧難は3年間にわたり、悪化の一途をたどっている。北朝鮮の農業が抱える構造的問題に起因するが、それによる凶作の穴埋めをしていた中国とロシアからの食糧の輸入を、極端なゼロコロナ政策でストップさせてしまったことで、多くの人が飢えに苦しんでいる。1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」と同じく、今の食糧難は人為的な失策の結果なのだ。
（参考記事：北朝鮮、集団農業に回帰でインセンティブ制度廃止か）