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中国が1962年に打ち出した「三自一包」と呼ばれる政策。失策により大量の餓死者を出す事態に至ったことから、それまでの集団農業から農地を農民に任せてやる気を引き出し、農業生産を高めるのが目的だった。しかし、その後の文化大革命において、資本主義的だとの批判を受け撤廃された。同様のインセンティブ制度が再び導入されたのは、文化大革命後の1978年のことだ。それが中国の経済発展の基礎となったとも言われる。

北朝鮮では、金正日政権時代の2003年、協同農場の農地を家族に任せる圃田担当責任制が一部で導入された。農民からの反応はよかったが、政府は社会主義計画経済に反する現象が起きたとして2005年に中断した。その後の2012年、金正恩政権時代に入って同様の制度が導入された。しかし、今年に入って撤回された模様だ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

黄海北道(ファンヘブクト)の情報筋は、鳳山(ポンサン)郡では今年、圃田担当責任制を実施している協同農場は一つもないと伝えた。各農場は、農民に対して圃田担当責任制はなくなったとして、集団農業方式で小麦、大麦の種まき、稲の苗床作りを行うよう指示している。

平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋も、殷山(ウンサン)郡では例年なら2月中旬に農民に対する土地の割当が行われていたが、今年はどの協同農場でも実施されていないと伝えた。圃田担当責任制の完全撤廃なのか、一時的な停止なのか、今の時点では確認できていない。

圃田担当制とは、従来の分組管理制よりも生産単位を縮小し、家族ごとに一定面積を担当させるものだ。複数の家族の10人から25人で構成される分組に農地を任せていた方式からさらに踏み込み、3〜5人の家族単位に任せた。計画(ノルマ)超過達成分は、請け負った農民の取り分となる。2014年には、農産物の販売と価格を協同農場と農民が自主的に決めることの法的根拠となる「農場法」の改正を行った。

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殷山郡の場合、2014年から本格導入されて、農民1人に1500坪から2000坪の農地が割り当てられ、国が肥料などの営農資材を提供する場合には、国が7に対し農民は3の割合、農民自身が調達する場合には6対4、または5対5の割合で、国と農民が収穫物を分ける仕組みだった。

ところが、これがうまく働かなかった。

北朝鮮の農業の生産目標は、計画経済の中枢を担う国家計画委員会によって定められる。前年の収穫量をもとにして、収穫量の計画(ノルマ)を課す、というものだ。自然災害、肥料などの営農資材の不足などは一切考慮されず、無条件でノルマ達成が求められる。

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達成できず処罰を恐れた農場幹部は、達成できたかのように虚偽報告を行う。その数字に基づいて翌年の農業生産のノルマが決められる。

(参考記事:凶作続きの北朝鮮農業、打開策は「ホラ防止法」

実際の収穫量とかけ離れた数字に基づき収穫の分配が決められるため、農民の手元に何も残らない事態が続出し、やる気を高めるどころか、むしろ絶望に追い込む結果を生んでしまった。

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「日照りと洪水でヘクタールあたりの穀物収穫量が減ったのに、当局は農民に国家納付量を無条件で出せと迫り、脱穀をする前に稲とトウモロコシをすべて持ち去り、農民が激怒した」(平安南道の情報筋)

生きていくために、農民は国や軍による収穫物の徴収を様々な手段を使って妨害する。また、任せられた農地にばかり手をかけ、一所懸命働いたところで自分のものにならない他の農地に関しては手を抜く、という現象も起きた。

また、トンジュ(金主、ニューリッチ)が農地を借り上げ、農民を雇い、スイカや落花生など高収益が望める商品作物を栽培させ、市場で販売した上で、その収益で市場で穀物を購入して協同農場に納めるといった現象も生じた。地主と小作農という、社会主義が最も否定するやり方が復活してしまったのだ。

当然、貧富の差が広がり、農民の不満は増大した。先の見えない貧困から抜け出すために、農村を捨てて都会に向かう農民が増え、ただでさえ機械化の遅れた北朝鮮農業にダメージを与える結果となった。当局は農民の連れ戻しや都市部の若い労働力の農村への送り込みに追われることとなった。

(参考記事:農業改革進まず貧富の差が激しくなる北朝鮮の農村

先月26日から今月1日まで開かれた朝鮮労働党中央委員会第8期第7回総会拡大会議で金正恩総書記は、「農村の政治的・思想的、物質的・技術的土台を実際に強化するためには、農業発展に否定的作用をする内的要因を適時に探し出して解消するのが切実な要求」と述べたが、黄海北道の情報筋は、これが圃田担当責任制の撤廃へと繋がったと述べた。

北朝鮮では、計画経済に基づいた農業を行い、穀物供給を市場での販売ではなく、国家糧穀販売所での配給で行うという、1980年代以前のシステムに戻そうとする動きが見られる。国家糧穀販売所の運営がうまく行かずに閉店したとの情報もあり、計画経済への復帰が思ったように進んでいないことがうかがえる。

(参考記事:毎年凶作の北朝鮮農業、何が問題なのか?

中国の改革開放が成功したのは、「先富論」、つまり先に豊かになれる者の存在、格差を認めたことに一因があった。その後、様々な紆余曲折があったものの、少なくとも今の北朝鮮のように食糧不足で餓死者を出すような事態はもはや起きない。どちらの農業政策が正しいかは一目瞭然だ。