1月8日は、北朝鮮の金正恩総書記の誕生日だった。金日成主席(太陽節)、金正日総書記(光明星節)のように公式の祝日には指定されていないが、子どもたちには「お菓子セット」が配布される。
国民に何らかのプレゼントをして忠誠心を維持させる「贈り物政治」の一環として行われているが、毎年その中身の良し悪しが話題にのぼる。だが、今年は少し様子が違うようだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
(参考記事:金正恩氏が配ったお菓子セット、不味すぎて政治事件に発展)咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、昨年の大晦日に全国の小学生や幼稚園児、乳児、さらには出産を控えた親に、元帥様(金正恩氏)の誕生日プレゼントとしてお菓子セットが配布された。
中身はというと、様々な種類のキャンディ、ゼリー、ガム5箱、カンジョン(おこし)などが計1キロ分、ぎっしりと詰め込まれていた。朝鮮労働党は「元帥様がくださった誕生日プレゼント」と公式に発表したが、実際は各道で、砂糖や小麦粉を自主調達して生産したものだ。原材料が足りなかったのか、無理やり1キロに合わせるために、ヨッ(朝鮮飴)1袋が追加で入れられていたとのことだ。
2017年の太陽節に配られたお菓子セットには、苦い味のする漢方ゼリーが入っていて、子どもや親からブーイングが上がったが、今回は中身に対する不満ではなく、こんな声が上がっている。
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(参考記事:金正恩氏が配る激マズ「ミサイルお菓子」に子供たちから悲鳴)極端なゼロコロナ政策で鎖国状態となり、貿易までストップさせてしまった北朝鮮。従来、不足する食糧は中国やロシアからの輸入で穴埋めしていたのだが、それが止まってしまい、国内は著しい食糧不足に陥った。
日々の糧が満足に得られない状況で、「パンがなければお菓子を食べればいいのに」と言わんばかりにお菓子セットを配布したことで、金正恩氏のありがたみを宣伝するはずが、「空気が読めていない」という反感を生んでしまったのだ。
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さらに、誕生日の祝賀イベントへの動員、現金収入を得るのに欠かせない市場での商売への統制強化など、国民の金正恩氏への支持は冷める一方だ。
「人民の生計活動を統制せず、市場で自由に商売できるように保証してくれれば、子どもたちはポン菓子、キャンディなどをいくらでも買って食べられるようになる」(ある住民)
「あれっぽっちのお菓子セットより、本当に子どもたちのためだと思うならば、親が経済活動をして子どもたちに1日3回の食事を出せるようにすることを優先すべき」(別の住民)
平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋も、昨年の大晦日にお菓子セットが配られ、国営メディアは「子どもたちが嬉しく新年を迎えられるように元帥様が贈り物を渡すよう指示なさった」と騒ぎ立てていると伝えた。
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だが、お菓子より食糧が必要な人々は、お菓子セットを市場で1万5000北朝鮮ウォン(約240円)で売払い、コメや麺を買っている。金正恩氏の名前の入ったものを売り払うことは深刻な政治犯罪になりかねないのだが、背に腹は代えられないのだろう。
そして、こうした「恩恵」からも排除される子どもたちがいる。コチェビ(ストリート・チルドレン)や、生きていくために家を売り払い、山ごもりをしている家族の子どもだ。
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