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世界で最も情報統制の厳しい北朝鮮でも、かなりの台数の携帯電話が使われている。しかし、国内にしかつながらず、ネットも国内専用のイントラネットしか使えない。一方、チャイナ・テレコムやチャイナ・ユニコムと言った中国キャリアの携帯電話は、制限はあれど、国際電話もネットも自由に使える。

そのことから、電波の届く中国国境沿いの地域では、その使用が当たり前のように行われ、中国には北朝鮮ユーザー向けの携帯ショップすらある。もちろん違法行為だが、保衛部(秘密警察)に定期的にワイロを渡しておけば、あまり露骨なことをしない限りは問題にならなかった。

しかし、携帯電話を通じた国内情報の海外流出、海外情報の国内流入に危機感を覚えた金正恩総書記は、厳しい取り締まりを命じた。また、反動的思想・文化排撃法や、取り締まり組織の反社会主義・非社会主義連合指揮部(82連合指揮部)の設置で、状況はさらに厳しくなった。

ワイロを渡したのに、管理所(政治犯収容所)送りになってしまった女性がいる。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

(参考記事:北朝鮮国民の生活を縛る「反動的思想・文化排撃法」のヤバさ

40代女性のチェさんはコロナ前、密輸で生計を立てていたが、ゼロコロナ政策の一環として国境が完全に封鎖されたことで、密輸ができなくなり、携帯電話を使った送金ブローカー業を営むようになった。これは、中国や韓国に住む脱北者が、北朝鮮に残してきた家族に仕送りした現金の受け渡しを仲介する仕事だ。

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彼女は、中国キャリアの携帯電話を使用した容疑で、2021年だけで3回も保衛部に逮捕され、厳しい取り調べを受けたが、問題なく釈放された。高額のワイロを掴ませたからだ。

そして昨年6月、彼女は再び逮捕された。前回と同じようにワイロを渡して釈放してもらおうとしたのだが…。

「コロナ後には中国キャリアの携帯電話の使用はスパイ行為だと騒ぎ立てたので、ワイロの相場が高騰し、5万元(約95万1600円)以上が必要となった。ワイロの額で量刑が決まる」(情報筋)

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彼女はこれまでの累計で、北朝鮮庶民にとっては天文学的な額と言える300万円以上のワイロを渡しており、懐がすっからかんになってしまい、ワイロを調達できなかった。すると地元の保衛部は、上級機関の両江道保衛局に彼女の身柄を移し、過去2年間で誰にいくらを手渡したかについて、厳しい取り調べを受けた。彼女は過去2年間で80人に現金を手渡していたと供述した。

それに加え、激しい拷問を受けて、やってもいない国内情報を流出した罪まで認めさせられた彼女は結局、管理所送りとなってしまった。どこの管理所に入れられ、刑期はどれくらいかは不明だが、よほど運が良くない限り、生きて帰ってくることはないだろう。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

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彼女が捕まった理由は、ワイロを渡せなかったことだけではない。

「保衛部は、年末の成果を挙げるために、一時はワイロを受け取って見逃していた人々を、一生出てこれないところに送り込んでいる」(情報筋)

北朝鮮のすべての機関、企業所は、年末に総和(総括、決算)を行う。その点数稼ぎのために、彼女を含めた多くの人が犠牲になっているのだ。点数よりもうまみがあるほどの超高額のワイロを送らない限りは、逃れられないだろう。

(参考記事:金正恩「処刑部隊」に年末ノルマ…息を殺す北朝鮮国民

また、「お前らの生殺与奪は俺たちが握っている」ということを見せつける目的もある。高位幹部をバックにつけ、数百万、数千万単位のワイロを送ったとしても、
金の切れ目が縁の切れ目。今要求している額が払えなければ、一巻の終わりなのだ。