秋の収穫期を迎えた北朝鮮。本来なら穀物価格が下がる時期のはずだが、今年に限ってはそうなっていないようだ。弾道ミサイル発射など軍事挑発を続ける金正恩総書記だが、国民は阿鼻叫喚の巷をさまよっている。
この時期には個人のトゥエギバッ(小規模農地)や協同農場からくすねたものなどが市場に流入するが、今年は例年にもまして凶作の上に、穀物泥棒の取り締まりが厳しく、思うように穀物が入荷していないようだ。
(参考記事:「カエルも食べない水草」で飢えをしのぐ北朝鮮の農民たち)そんな中、あまりの貧しさに耐えかねた末の悲劇的事件が起きている。
平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、泰川(テチョン)に住んでいた50代の夫婦が自ら命を絶つ事件が先月初めに起きた。
夫婦は、未婚の20代の娘と共に暮らしていた。娘がコロナを疑わせる症状を見せ、病院を訪れたものの、コロナではないとの診断を受けただけで、一切の治療も投薬もしてもらえなかった。
(参考記事:金正恩氏「ゼロコロナ」宣言でコロナとの診断が不可能になった北朝鮮の病院)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
市場で薬を買おうとも、日々の糧に困るほどの極貧生活をしていた家族は、近所の人々を訪ね歩き、金の無心をした。しかし、苦しいのは皆同じ。結局、助けの手を差し伸べてくれる人はいなかった。
結局、娘は亡くなり、夫婦も後を追って命を絶った。
枇峴(ピヒョン)郡の良策(リャンチェク)労働者区でも同じような事件が起きている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
村のハーモニカ住宅(長屋)に住んでいた6世帯は、皆同じベアリング工場に勤めていたが、給料も配給もほとんどもらえず、極貧生活を送っていた。うち2世帯は絶糧世帯(食べ物が底をついた世帯)となり、結局餓死した。別の2世帯は子どもと母親が熱病で死亡し、さらに別の1世帯では、あまりの生活苦に悲観した夫が自ら命を絶った。
一方、商売や密輸で儲けて豊かな生活をしていたトンジュ(金主、ニューリッチ)の間でも、絶糧世帯が出るほどの有様となっている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面平壌のデイリーNK内部情報筋によると、南浦(ナムポ)に住んでいたAさんは、自分名義の船を所有していた「船主」と呼ばれるトンジュで、北朝鮮と中国を行き来して貿易業を営み、市内に2部屋のマンションを持つほど豊かだった。
ところが今年初め、Aさんは貿易法に違反したとの理由で摘発され、革命化(下方)と全財産没収の処分を受けた。残された家族は、家財道具を売って得たカネで食糧を買うほどの困窮生活に追い込まれた。
今年8月、人民班長(町内会長)が回覧板を持ってAさんの家を訪ねたところ、ひとけがなかっため、怪しく思い家の中を覗いてみたところ、Aさん一家全員が亡くなっているのを発見した。おそらく餓死と思われる。
江原道(カンウォンド)の元山(ウォンサン)で、商品を他地方へ運ぶ「タルリギ」という商売を営んでいたBさんも、豊かな生活から奈落の底に叩き落された一人だ。
元山では右に出る者はいないというほど手広く商売をしていたBさんだが、コロナによる移動統制で商売をたたむしかなくなった。収入が途絶え、売掛金の回収も滞り、借金地獄に陥った彼は「もはや生きていけない」との遺書を残して、家族を道連れにして命を絶った。
トンジュすら生活苦に追い込まれる現状について、上述の平安北道の情報筋は驚きを隠しきれないようだ。
「数年前まで、密輸や手広く商売をしているトンジュが餓死したり、自死したりするほど生活が苦しくなるなんて考えもしなかったが、金持ちだった人ですら耐えられないほど困窮生活に追い込まれている人が非常に多い」
また、こんな状況に何の対策を打たない国に対して「政治が間違っているから人民が死につつある」と批判する人も増えたと伝えた。
(参考記事:「餓死しそうだ」すがる庶民に北朝鮮幹部が投げた言葉)