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海外からアクセス可能な北朝鮮の国営メディアが、国内で起きた事件・事故について報じることは、ほとんどない。第3放送と呼ばれる有線ラジオや、思想教育用の資料を通じて、ごく断片的に伝えられることがある程度だ。それだけに、北朝鮮では口コミネットワークが非常に発達している。

海外からの情報は、中国との国境に接した地域で使われている、中国キャリアの携帯電話を通じて北朝鮮に入ってくることが多い。当局は摘発に必死になっているが、依然として多くのユーザーが存在しているようだ。

韓国では最近、文在寅前政権が、亡命を求めた脱北漁民2人を北朝鮮に強制送還した事件が大問題になっている。韓国メディアの報道が増えたのは、与党・国民の力が事件の真相究明タスクフォースを立ち上げた先月21日ごろからだが、統一省が12日に送還の様子を収めた写真を公開してからは、連日の大報道が続いている。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は18日、国境に接する会寧(フェリョン)や道内最大都市の清津(チョンジン)などで噂が広がっていると伝えたが、当局は早速、対策に乗り出した。

(参考記事:“拷問室へ向かう男”の衝撃写真…北朝鮮国民も「ありえない」驚愕

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別の情報筋によると、会寧では15日、「外部(外国)と連絡を取り、流言飛語を広げる行為との闘争を強化することについて」というタイトルの緊急講演会が開かれた。

当局の方針を伝えたり、思想教育を行ったりする場となっている講演会では、通常は人民班長(町内会長)や洞事務所(末端の行政機関)の長が話をする。ところが今回は、朝鮮労働党の咸鏡北道委員会(道党)と会寧市委員会(市党)の組織部の幹部が直々にやってきて話をするという力の入れようだ。

市内の江岸洞(カンアンドン)では、道党組織部の課長による特別講演会が行われた。まず、封鎖と隔閉措置(ロックダウンと隔離)が行われている中、防疫大戦の勝利に向けて進んでいるのは、わが国(北朝鮮)人民の党に対する限りなき忠誠心と無限の献身のおかげだと、住民を持ち上げた。

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続けて、「一部住民の間で国境の関門に暮らしているという自負心より、一時的な困難に屈して、自分だけの享楽のために外部と連絡してカネ儲けをして、敵どもの反共和国(北朝鮮)策動)に加担し、摘発され厳しい裁きを受ける者が少なくない」とした。

さらに、外部から来た確実ではない噂を内部(国内)で広げる現象は、党と人民の一身団結に重大な阻害をもたらすとも指摘した。講演は続く。

「党の寛大な政策にも、国境地域の住民の間では外部と連絡し、敵どもが広げる流言飛語を内部に流布させる行為が絶えない。人民の厳しい裁きを受けるべき民族反逆者どもの家族や関連対象について、公然と話をして、わが国の社会主義制度を抹殺しようとする敵どもの策動に相槌を打つ行動が現れ続けている」

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強制送還された脱北漁民とその家族がどのような運命を辿ったのかという話が、北朝鮮国内で、相当な勢いで広がっていることがうかがえる。それを抑え込むために講演会を開き、依然として中国キャリアの携帯電話を使用している者に対しては、「わが党の寛大な政策を正しく知って自首せよ」と促している。

ただ、講演会の3日後の18日の時点で、90キロ離れた清津にまで話が伝わっていることと、別ルートでも情報が伝わっているであろうことを考えると、すでに北朝鮮国内のかなり広い範囲で噂が広がっているものと思われる。

コロナ前の話ではあるが、金正男(キム・ジョンナム)氏殺害事件の噂が1カ月足らずで全国に広がってしまったという事例がある。それほど、北朝鮮の口コミネットワークは強力なものだ。

(参考記事:金正男氏の「殺害情報」を広める「情報通の奥様」たち

一方、情報筋は、携帯ユーザーへの自首の呼びかけに対して「国境地域の特性上、外部との連絡をしなければ食べていけないのに、誰が自首などするか」と懐疑的な見方を示した。

たとえ携帯電話を通じた情報流入の遮断に成功したとしても、北朝鮮国内には韓国や米国のラジオを聴取している人々がおり、中にはテレビを視聴している人もいることから、当局の目指す情報鎖国の実現は不可能だろう。

(参考記事:使うのも命がけ…北朝鮮で愛された「時代遅れの機器」