使うのも命がけ…北朝鮮で愛された「時代遅れの機器」

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北朝鮮で一世を風靡したメディアプレイヤー「ノートテル」。これ一台さえあれば、CD、DVDの再生ができ、テレビまで見られるというすぐれもので、中国製のものが密輸により大量に流入、韓流コンテンツの普及に大きな役割を果たした。

デイリーNKと国民統一放送を運営する韓国の社団法人、統一メディアが2019年6月に発表した報告書によると、脱北者200人を対象にした聞き取り調査で、76.5%が「ノートテルを利用したことがある」と答えている。

ただ、携帯用とは言ってもそこそこの大きさがある。当局の取締り班に家に踏み込まれた時に隠しきれずに摘発される事例が相次ぎ、次第に人気は落ちていった。摘発されれば重罪を免れない。今年1月には韓流コンテンツを密売していた20代の男女が公開処刑されている。

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スマートフォンなどを利用し、USBメモリやSDカード、Bluetoothで韓流コンテンツのソフトをやり取りするのが普通だ。

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実際、平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋も、最近はノートテルで映画を見る人は少なく、CDそのものもあまり売られていないと述べている。最近の流行りは、液晶テレビにUSBメモリを差し込んで、映画を見る手法だという。取り締まり逃れの手法の巧妙化が、デバイスの変化を生んでいるというのが情報筋の説明だ。

「109グルパ(韓流取り締まり班)が急に家に踏み込んできたとき、DVDはサイズが大きくて隠すのが難しい。USBメモリはテレビから抜いて簡単に隠せるので、取り締まりから逃れられやすい」(情報筋)

ただ、ノートテルのリスクが知られた今でも、愛用し続けている人がいるようで、最近でも摘発事例がある。

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デイリーNKの別の内部情報筋によると、南浦(ナムポ)市で先月中旬、数年に渡って韓国のテレビやラジオを視聴していた20代後半の男女が、保衛部(秘密警察)に逮捕された。

男性が、友人に韓国のテレビとラジオの内容と、受信方法を教えたのだが、その友人が情報員(スパイ)だったのか、保衛部に密告したことで逮捕に至った。

2人は恋愛関係にあり、2018年に購入した中国製のノートテルをいじっていて、偶然韓国のテレビとラジオの受信に成功してしまい、それから見るようになったと供述した。

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また、家族に累が及ぶのを恐れ、視聴、聴取は2人きりでいるときに限っていたとも述べたという。

韓国のアナログテレビ放送は、2012年を持って終了しているが、一部のチャンネルは、北朝鮮の視聴者が引き続き見られるように、アナログ電波の送信を続けていると言われている。

韓国の白翎島(ペンニョンド)は、本土の仁川(インチョン)から西に200キロ以上離れているが、北朝鮮まではわずか15キロしかない。その地理的利点を生かして、公共放送のKBS、MBC、民放のSBS、OBSがテレビ、ラジオの送信所を置いており、対岸の北朝鮮・黄海南道(ファンヘナムド)は当然のことながら、首都・平壌や、遠くは韓国から300キロも離れた平安北道の雲山(ウンサン)でKBSを受信しているとの情報もある。

(参考記事:北朝鮮山奥で「韓国テレビ放送」が受信可能…ソウルから300キロ

北朝鮮当局も南浦市のみならず、黄海南道、黄海北道(ファンヘブクト)、開城(ケソン)市、江原道(カンウォンド)などで、韓国からのテレビの電波がよく届いていることを認識しているようだ。今回の事件を受けてこれら地域では、82連合指揮部(反社会主義・非社会主義連合指揮部)が家々を回り、ノートテルを使っていないか、チャンネルを変えたら韓国のテレビが映らないかをチェックし、問題のあるデバイスを回収する事業を行っている。

またラジオに関しては、ダイヤルをハンダ付けで北朝鮮のラジオ局の周波数に固定して、安全部(警察署)で封印を貼ったものに限って合法的に所有できることになっているが、それが外れているものは、回収の対象としているとのことだ。

ただし、一連の取り締まりは、理由を知らせずに行われている。「ノートテルで韓国のテレビ、ラジオの受信ができる」と噂が広がるのを恐れてのことと思われる。その代わり、「最近、南朝鮮(韓国)傀儡一味が、周波数(送信出力)を高め、人民に伝えるべき(朝鮮労働)党の声を妨害している」とだけ、告げているそうだ。

情報筋によると、最近の摘発事例は、国内で出回る韓流コンテンツの視聴、保存メディアの所有がほとんどで、韓国のテレビ、ラジオの直接受信での摘発は、非常にまれだという。

北朝鮮で受信できる韓国のテレビ、ラジオは、リスクが高い割には、娯楽性が低く、北朝鮮の人々を引きつけるのに成功していないとの指摘もある。

(参考記事:「お説教」には関心なし!? 韓国の対北ラジオが北朝鮮の人々から不評なワケ

さて、逮捕された2人だが、今現在は家族もろとも保衛部にしょっぴかれ、厳しい取り調べを受けている状態だ。テレビ、ラジオを通じて韓国と直接つながったことから、スパイ容疑が適用され、管理所(政治犯収容所)送りか、最悪なら処刑される可能性もある。

(参考記事:男たちは真夜中に一家を襲った…北朝鮮の「収容所送り」はこうして行われる