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北朝鮮は、国名に民主主義を掲げているものの、民主主義国家ではない。日本の国会に相当する最高人民会議、都道府県議会にあたる道人民会議、市町村議会にあたる市、郡人民会議が存在し、それぞれの代議員は選挙で選ばれるものの、有権者は候補者の名前すら知らされないまま、賛成投票を強いられる。

合法的に民意を政府機関に伝えるのは、信訴と呼ばれる告発制度くらいしか存在しないが、だからといって北朝鮮政府は民意を完全に無視しているわけではない。むしろ、民主主義国家以上に敏感な部分もある。

それを示すような指示が当局から下された。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

中央から今回下された指示の核心は、「(朝鮮労働)党組織から群衆の動向と民心をくまなく掌握し、民心に影響を与えうる問題に先回りにして対策を立てて、住民の中に深く入り込み、彼らが何を要求し、考えているのかよく知り、彼らの困難な事情を適時解決せよ」というものだ。

また、「住民に対する教養事業(思想教育)に力を入れ、非正常な現象が絶対に起こらないようにせよ」とも強調されている。

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北朝鮮国民の生活は2000年代に入り、なし崩し的な市場経済化の進展に伴い、徐々に向上しつつあった。しかし度重なる核実験、ミサイル実験が国際社会からの制裁を招いたことや、コロナ対策として国境を封鎖、貿易依存が強いにもかかわらず貿易を停止したことで徐々に悪化した。

食糧や医薬品、営農資材などの不足が起こったところに、今度は国内での新型コロナウイルスの感染者発生で、強力な移動統制が敷かれ、餓死者を出すに至った。

当然、国民の不満や鬱憤は溜まっており、民心の離反を招いているが、社会的動揺につながるほどの異常現象が起きないように、人々の暮らし向きを知り、うまく管理せよというのが今回の指示の趣旨だ。

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(参考記事:北朝鮮で餓死者続出…金正恩「どんちゃん騒ぎ」の悪夢再び

同時に指示文は、党組織と党のイルクン(幹部)が、現実味のない表現を使って事業計画書を作成することなど、党の事業において現れている形式主義的な傾向や要素を徹底的に克服し、実効性が伴うものにせよとの注文をつけた。

朝鮮労働党の会寧(フェリョン)市委員会では、中央からの指示を貫徹するために、実務対策会議が開かれた。その場では、初級党単位(末端組織)が生活苦に直面している家はないか再点検し、問題解決に乗り出すことに関して討議がなされたが、それにあたって絶対的に必要な物質的な支援の対策については、案が出なかったとのことだ。

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食糧の調達に関して、国は地方に責任を丸投げ。地方は、富裕層や人民班(町内会)の中で、少しでも余裕のある家に寄付を強いるなどして、食糧をかき集めてはいるものの、それだけでは到底足りないようだ。

(参考記事:食糧難の北朝鮮、富裕層に「寄付のお願い」

会寧市内のある工場の初級党の書記は、食糧難で出勤ができずにいる従業員を家庭訪問して、「党が心配しているから、今の難関を共に克服しよう」と声がけを行ったものの、食糧の配布など実際に役に立つ支援は行わなかった。生活が苦しいのは、書記とて同じで、その余裕すらないというのが実際のところだろう。

中央は毎年のように民心を把握して問題を解決せよとの指示を地方政府と党組織に出しているが、食べ物はどこにもないため、下級幹部は結局「我慢しよう」と言うことしかできず、それで問題が解決しなかった場合、彼らが責任を負わされる。

そもそもの問題は、金正恩総書記の誤った政策判断にあるのだが、本人以外の何びとたりとも、彼の誤ちを指摘することはできない。結局、「政策は正しいのだが、それを正しく実行できていない幹部が悪い」という理屈で、幹部に責任をなすりつける。それを見た庶民は溜飲を下げ、当面の不満は抑えられるものの、問題は何一つ解決しないのだ。