韓国の民放テレビ、SBSで昨年末まで4年にわたって放送された「ペク・チョンウォンの路地裏食堂」。廃業寸前の食堂を再生させるというバラエティ番組だ。
司会を務める料理研究家ペク・チョンウォン氏の名声は、北朝鮮まで広がり、彼の作ったレシピは、平壌の上流階級の食卓を飾っている。
(参考記事:北朝鮮の「奥様」を魅了した料理ユーチューバー)政治的に問題になるような内容は一切含まれていないこの番組だが、それを見ていた高級幹部の令嬢が処刑される事件が起きたと、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
20代女性のAさんは、平安南道保衛局(秘密警察)の政治局長の娘で、韓徳銖(ハン・ドクス)平壌工業大学を卒業後、食料品工場で働いていたが、最近になって平城(ピョンソン)に住む家族のもとに戻り、平安南道保衛局傘下の生産基地に所属していた。
といっても、Aさんの場合はカネとコネの力で出勤扱いにしてもらい、実際は働かずに遊んで暮らしていたとのことだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面彼女のボーイフレンドは、理科大学自動化学部を出たコンピュータ技術者のBさんだった。2人は、上述の「路地裏食堂」から手始めに、韓国料理に関する様々な韓流コンテンツを見るようになった。
コロナ鎖国下にある北朝鮮では現在、密輸が困難になったため、新作の韓流ドラマ、映画などの入手も難しくなっているが、高位幹部らがコネを使って取り寄せているとの情報がある。Aさんもまさにその1人だったのかもしれない。
(参考記事:ドラマを地で行く公開銃殺…北朝鮮「イカゲーム」で高校生に重罰)当初は韓流料理番組を見て、新しいメニューを開発して飲食業を開こうと思っていた二人だったが、徐々に韓流にはまり、写真館を営み、中国製のパソコンを取り寄せ、韓流ソフトの複製、販売を行うようになっていった。
(参考記事:北朝鮮の秘密警察が「写真館」を目の敵にする理由)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
しかし、これは無期懲役または死刑に処される可能性のある重罪だ。バックに秘密警察幹部の父親がいるからこそ、可能だったと言えよう。
だが、父親の権力を持ってしても、隠し通すことは不可能だったようだ。情報筋は詳しい経緯には触れていないものの、二人は逮捕されてしまった。そして1月末に、平城市の文化洞(ムナドン)で公開裁判にかけられ、当局により引き出された人民班(町内会)、安全部(警察)、検察所などの人員300人が見る前で銃殺されてしまった。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面最前列で、その様子を息を飲んで見守っていたのは、二人の商売の協力者でもある保衛員(秘密警察)たちで、銃殺後に、彼らも違法映像物流通加担、黙認の容疑で逮捕された。
(参考記事:【写真】玄永哲氏の銃殺で使用の「高射銃」、人体が跡形もなく吹き飛び…)一方、道保衛局政治部長の座にあった父親は、処刑を免れたものの、管理所(政治犯収容所)送りとなった。今まで特権に守られていた人物が、極度に劣悪な環境の管理所に送り込まれるとなると、緩慢な処刑と言っても過言ではないだろう。
ちなみに彼は元々行政機関の幹部だったが、反体制勢力の取り締まりで評価を受け、保衛局に栄転した人物だった。
(参考記事:金正恩「権力層を集中取り締まり」処刑部隊も見せしめに)