一昨年に脱北した韓国に向かった脱北者の男性が正月早々、軍事境界線のフェンスを乗り越えて北朝鮮に戻った事件。関係者にかん口令が敷かれていたものの、そんなものは意味をなさないのが北朝鮮だ。事件から1週間ほどで、住民の間にこの事件の話が広がりだした。
話を耳にした人々の反応の多くは「理解ができない」というものだ。
(参考記事:徐々に明らかになる「元日に北朝鮮に戻った脱北者」の処遇)デイリーNK内部情報筋によると、今回の事件の話は、脱北して韓国に住む家族を持つ人、送金ブローカーなどから口コミで広がり、住民の関心を集めている。その反応は次のようなものだ。
「(韓国に行きたくても)行けずにいる人が多いのになぜ戻ってきたのか」
「あそこ(韓国)に行こうとして失敗して死んだ人がどれほど多いか。なぜ戻ってくることを考えたのか」
コロナ鎖国の長期化により、深刻な食糧と物資の不足に苦しめられている北朝鮮の人々。できることならば逃げ出したいと考える人も少なからず存在するだろうに、そんなチャンスを掴んだのに自らドブに捨てるようなことをした男性の考えが理解できないのだろう。
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その一方で、「どれほど苦しかったら、未来への保障がないここ(北朝鮮)に戻ってきたのだろうか」と韓国での生活が苦しいものだっただろうと考える人もいる。
「資本主義が良いと聞いていたが、そうではないようだ」
「さもなくば、命をかけて進んだ道を戻ってくることなどあるだろうか」
「南朝鮮は生き地獄」という北朝鮮当局のプロパガンダを信じたであろう人がいる一方で、差別や貧困に苦しむ韓国在住の脱北者の話を耳にした人もいるだろう。
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いずれにせよ、当局の立場からすると、後者のような話が広がる方が都合がいい。「民族反逆者の越南逃走者(脱北者)どもは南朝鮮の傀儡一味のもとで死ねずに生きている」というプロパガンダの信頼度が高まるからだ。
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北朝鮮に戻ったキム氏は、ソウル市内に居住し、基礎生活保障(生活保護)で月50万ウォン(約4万8000円)を受け取り、掃除の仕事から得られる給料と合わせて生計を立ててきた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面韓国のNGO、北朝鮮人権情報センター(NKDB)の調べでは、韓国に在住する脱北者の18.5%が「北朝鮮に戻ることを考えたことがある」と答え、その理由の77.2%が「故郷と家族への郷愁」を挙げ、次いで「韓国での生活に馴染めない」「友人に会いたくて」が多かった。