北朝鮮の新年は、異臭と共に始まる。
1月1日は新暦の正月で祝日、2022年に限って翌2日は日曜日なので、仕事初めは3日からだ。それと同時に全国的キャンペーンとして繰り広げられるのが「堆肥戦闘」だ。
これは、化学肥料の不足を補うために、大量の人糞を集めるというもので、個々人にノルマが課される。その量がとてつもなく多いため、市場では人糞が売られ、協同農場とグルになって、人糞を納めたことを示す「堆肥確認証」を捏造する人糞ブローカーが暗躍するなど、世界的に見て奇怪な現象が繰り広げられる。
(参考記事:一人あたり500キロの人糞集めから始まる北朝鮮の新年)それは、誇り高き朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士とて例外ではない。デイリーNKの内部情報筋は、堆肥戦闘に追われる戦車部隊の新兵の話を伝えた。
平安南道(ピョンアンナムド)の价川(ケチョン)市の龍雲里(リョンウンリ)に位置する朝鮮人民軍第2734部隊は、総参謀部直属の戦車を操縦する兵士を養成する機関だ。ここの教育生は、他に先駆けて12月14日から堆肥戦闘に突入している。午前の座学と武器の清掃の時間を除き、毎日午前2時から7時まで、教育生1人あたり1日に10キロの人糞を集めることが強いられている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面なぜ、軍が人糞を集めなければならないのか。それは「副業地」を有しているからだ。
軍の食糧は、協同農場から納められる、より正確に言うと半ば強奪するような形で持ってくるが、輸送中の横流し、横領などで量が減ってしまう上に、そもそも量が足りていない。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面兵士を飢えさせないために、各部隊は「副業地」という名前の畑を持っており、そこに撒く肥料が必要であるために、人糞集めに必死になっているということだ。ちなみにこの部隊が所有する副業地は、40ヘクタールに達する。
(参考記事:国と軍に納めたはずのコメが次々に消えていく北朝鮮の謎)部隊では3ヶ月間の初期教育、1年間の戦車操縦技術、実習教育が行われることになっており、また12月からは全軍一斉の冬季訓練に突入しているが、この養成所の新兵たちがやらされているのは人糞集めばかり。内部からは「訓練に集中できない」との不満が上がっているが、部隊側は広大な副業地の存在を挙げて釈明しているとのことだ。
部隊挙げての堆肥戦闘だが、ノルマを達成できずに、周囲の民家から人糞を盗み出す新兵もいるとのことだ。地域の村人は、部隊の兵士に面と向かって「うちの堆肥には手を出すな」と警告するほどの有様だという。
(参考記事:過酷な「人糞集め」に苦しむ北朝鮮国民を襲うもうひとつの災い)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
こんな状況に新兵も村人も怒り、呆れ果てている。
「戦車兵になろうと養成所に来たのに、人糞の盗み方を習いに来たのかという気持ちになる」(新兵)
「機械化哨兵を養成する基地ではなく、農業専門家を養成する基地と言う方が正しい」(村人)
ちなみに、この部隊が副業地を大々的に運営するのは、故金正日総書記の影響が大きい。
今以上に食糧事情の悪かった2004年10月、金正日氏はこの部隊を視察し、家畜の飼育、きのこの栽培、農業などを高く評価したという。それ以降、農業に力を入れるようになってしまい、この部隊の伝統であるかのように今に至るまで受け継がれている。
2020年、2021年と2年連続で、大豆とトウモロコシ数十トンもの収穫をあげ、金正恩総書記から「自力更生の生きた模範を見せた部隊」と評価されたのだから、ますます敵ではなく人糞との「戦闘」に力が入っているのだろう。