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北朝鮮の金正恩総書記は、先月の最高人民会議第14期第5回会議で行った施政演説で、次のように述べている。

「党の新しい育児政策を実行するための活動を実質的に展開して全国的な乳生産量を現在の3倍以上に増やし、乳加工技術を発展させ、乳製品の質を徹底的に保障する」

(参考記事:「米国の対話申し出は欺まん」金正恩氏、最高人民会議で演説

乳製品の配給以外にどのような政策が行われるかは言及されていないが、最高指導者がわざわざ触れるほど、北朝鮮の少子化問題が深刻化しているということを示していると言っても過言ではないだろう。

デイリーNKの内部情報筋も、かつては子どもを一人だけ産んで立派に育てるという風潮だったのが、金正恩時代に入ってから少子化問題がさらに深刻になり、そもそも子どもを産まない選択をする人が多いと、背景を説明した。

既に、5歳以下の子どもに対して乳製品を配給する施策が実施されているが、根本的な問題が解決しない限りは、焼け石に水なのだ。情報筋は、朝鮮労働党はなぜ少子化が進んでいるのか全くわかっていないと苛立ちを示した。

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「(北)朝鮮の出産率は乳製品と何の関係もない。一般住民は乳製品の配給に関心すらない。人々がなぜ子どもを産まないのか、党はまともに理解できていない」
(情報筋)

(参考記事:コロナ禍で深刻化する北朝鮮の少子化、育児支援策も問題は財源

少子化の根本的問題として挙げられるのは、経済的困難だ。まずは妊娠、出産するにも多額の費用がかかることだ。「医療は無償」が北朝鮮の建前だが、実際はワイロを支払わなければ産婦人科でまともに見てもらえず、その結果として悲劇も起きている。

「首領様(金日成主席)の時代には妊婦に対する優遇政策があった。しかし、将軍様(金正日総書記)の時代に(大飢饉の)の苦難の行軍が始まり、国の正常な医療システムがまともに働かなくなった。平壌産院など一部の大都市の病院では、出産後にわかめスープくらいは出してくれるが、それ以外のものはない。むしろ医療関係者を接待しなければならない」

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(参考記事:北朝鮮「産婦人科の総本山」で相次ぐ死…背景に医療の闇

また、経済難により結婚そのものをしようとしない人が増えている。

「結婚した瞬間から、女性は労働鍛錬隊(刑務所)暮らしが始まるという流行語があった」(情報筋)

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男性は、まともな給料を出せない国営企業や国の機関への配属が義務化されている一方で、それのない女性は、市場で商売をして、一家の生計を支える。子どもを産めば、出産、教育に莫大な費用がかかるが、それらすべてが女性の肩に重くのしかかるのだ。特にコロナ禍において経済難がいっそう深刻化し、結婚、出産を考える余裕はなくなった。

それでも金正恩氏が育児政策に言及しただけでも、多少はマシになったと言えよう。今までの人口減少抑制策としては、避妊、中絶の禁止という的はずれな政策しかなかったからだ。

しかし、多くの女性は避妊リングを利用しており、違法ではあるが産婦人科の医師にワイロさえ渡せばいくらでも施術してもらえるのが現実だ。

(参考記事:金正恩氏「避妊ダメ。中絶禁止。離婚もNG」で抱える大問題

少子化問題を解決するには、誰もが安心して結婚、出産、育児ができて、子どもに教育させられる経済的安定を取り戻すことが最優先だが、一度広がってしまった「結婚しない、子どもを産まない」という風潮は、かなりの積極的な介入策を取らない限り解決しないことは、諸外国の事例が示している。