「将軍様の肖像画より人命重視」北朝鮮の地方当局に変化

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近年、毎年のように自然災害による深刻な被害を受けている北朝鮮だが、今年も例外とはならなかった。8月に入ってから降り出した大雨で、全国的に深刻な被害が出ていると、各地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、低地帯にあるトウモロコシ畑が浸水、小学校5年生以上のすべての村人が、水をかき出す作業に動員されていると伝えた。

今回の浸水で、実る前のトウモロコシの根が腐り、人々は肩を落としているという。現地当局は、今回の災害は今後訪れる災害の「前奏曲」に過ぎないとして、精神を集中し、8月の1ヶ月間、個人、団体に責任を持たせる区間を割り当て、被害の復旧とさらなる拡大防止に全力を尽くすよう命じているとのことだ。

この総動員令が全国的に下され、「社会主義前哨戦である農場と5カ年計画に基づき、各道、市、郡で建設中の産業工場、住宅建設現場に被害が出ないようにするのが優先」だと強調されているという。

北西部の平安北道(ピョンアンブクト)新義州(シニジュ)での大雨による浸水、停電被害については既報の通りだが、そこから南東に100キロに離れた、核開発施設があることで知られる寧辺(ニョンビョン)と博川(パクチョン)でも被害が出ていると、現地のデイリーNK情報筋が伝えている。

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増水した川では、木造で床版だけがセメント舗装された橋が複数流されるなどの被害が出ているとのことだ。

当局は、第3放送(有線ラジオ)と宣伝車を使い、さらなる雨雲の襲来に警戒せよ、首領様(金日成主席)と将軍様(金正日総書記)の肖像画を家庭用1号保衛箱に入れて避難せよなどとの宣伝を繰り返している。こんな非常時においても、人の命より肖像画を大切にするのが北朝鮮だ。

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ところが、同じ大雨被害を受けた地域でも、咸鏡南道(ハムギョンナムド)では肖像画に関して、異なる指示が下されている。

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現地では今月1日から大雨が降り、住宅と田畑が浸水、流出した。中でも平野地帯の広がる咸州(ハムジュ)、定平(チョンピョン)、利原(リウォン)の各郡での被害が甚大で、当局は家を失った住民を旅館や合宿所などに避難させた。住民らは「今年の農業は完全にだめになった」と落胆しているという。

多くの住民は、金日成主席、金正日総書記の肖像画を家から持ち出せないまま、避難を余儀なくされた。命より大切な扱いを受けるものだけあって、故意でなくとも汚損させれば処罰を覚悟しなければならないが、今回、当局は「人の命ほど大切なものはない」と態度を一変させ、政治的問題にはしない方針だ。

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地方の小役人なら、下手に扱うと自分に責任がなすりつけられかねないと恐れ、事情を問わずともかく処罰しがちなこの手の事案。金正恩総書記は、災害復旧を強力に支援せよと命令しているが、その中に「肖像画のことは大目に見てやれ」との命令が含まれていた可能性も考えられる。

(参考記事:「被害復旧を強力に支援」咸鏡南道の水害で金正恩氏が命令

今回の大雨の原因となったのは、温帯低気圧となり、ゆっくりとした速度で北上を続け、中国東北で停滞していた台風6号(インファ)。そこに加えて、南からは台風9号(ルピート)、10号(ミリネ)が北上するなど、悪条件が揃っている。

実際、北朝鮮の気象水文局は、国家非常災害委員会のイルクン(幹部)に「南朝鮮(韓国)に向かうはずだった大量の雨雲が、予想外にも進路を変えてわが国(北朝鮮)に押し寄せている」と伝え、今月上旬に各地に集中豪雨が降ると予想していた。

ところが、この話がねじれて伝わり、「南朝鮮のIT技術が発展し、遠隔操作で雲をわが国の方に押しやったようだ」という荒唐無稽な噂が流れているとのことだ。