春の訪れとともに、農繁期に入った北朝鮮。国営メディアは、都市住民を大量動員し、協同農場での田植えを一気に行う「田植え戦闘」の雰囲気づくりに躍起だ。
また、朝鮮労働党機関紙・労働新聞は4月20日、黄海北道(ファンヘブクト)燕灘(ヨンタン)郡で、遅効性肥料の生産基地を自主的に短期間に立ち上げ、生産を行っていると伝えるなど、肥料や営農資材の確保に余念がない様子を報じている。
だが、報道と現実が異なるのが北朝鮮の常。現地から上がる、「これでは種まきすらできない」という悲痛な声を、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
(参考記事:「コメで革命を守ろう!」北朝鮮紙、田植え戦闘をアピール)咸鏡北道(ハムギョンブクト)の農業関連の幹部によると、道の農村経営委員会は、道内の農場に対して「国の未来は農業にかかっている」と、朝鮮労働党第8回大会で決定された事項の貫徹のため、農作業の準備を適時に行うように求め続けている。
しかし、清津(チョンジン)市の青岩(チョンアム)区域にある富居(プゴ)協同農場では、種まきの時期を迎えたのに畑起こしが全く進まず、期日までに種まきができそうもないという。その理由を、幹部は次のように説明する。
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昨年来のコロナ鎖国で、深刻な食糧難に直面している北朝鮮では、農作業に欠かせない牛に与える飼料が不足している。平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は今年3月、道の農村経営委員会の調査結果として、道内の農場で2月の1ヶ月間で牛120頭が死亡し、その4分の3が栄養失調だったと明らかにしている。
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人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面何もできずにいる農民の間には「他の国では機械で肥料を撒いて、ヘリコプターが農薬を散布する」という噂話が広まり、中には「そんな噂が事実なら、一体われわれはどんな時代に生きているのか」と嘆き、ため息を付く人もいるとのことだ。
作業班長は、農場管理委員会に問題解決を繰り返し訴えたが、「トラクターを使え」と言われるばかり。この農場には2台のトラクターがあるが、40年以上前のもので老朽化が激しく、燃費も悪くて使うに使えない代物だ。だからといって、人力だけで畑起こしを行うこともできず、お手上げ状態だという。
咸鏡北道の鏡城(キョンソン)郡の農業関連の情報筋も、現地の状況は清津と変わらず、畑起こしは目標の半分以下にとどまり、既に種まきの期日を過ぎたものもあれば、期日が迫っているものもあり、農民たちは地団駄を踏むばかりだと伝えた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面深刻な状況を把握した当局は、中国から小型の多目的トラクターの輸入に乗り出した。このトラクターは、燃料消費が従来品の4分の1で済み、様々な機能を搭載しているため、これにかける農民の期待は大きく、輸入がほら話でないことを切実に願っている。
(参考記事:北朝鮮行きの国際貨物列車、1年2カ月ぶりに運行再開か)一歩目から躓いている北朝鮮の農業だが、順調に進んでいるところもある。
両江道(リャンガンド)の農場関連の情報筋は、「党が示した穀物高地を無条件で占領する(生産高を確保する)ことで、人民の食糧供給を正常に保証することに関する最高尊厳(金正恩総書記)の指示を貫徹するために、各農場は競争図表(実績を表す図表)を貼り出した」とし、大紅湍(テホンダン)郡の新徳(シンドク)農場では、畑起こしを終えた作業班が、まだ終えられていない作業班の手伝いに行っているとも述べた。
順調に進んでいるのは、この農場が2003年に金正日総書記が訪れた「教示農場」で、古いトラクター以外にも、ベラルーシ製のベラーズ、ロシア製のハテズ、国産の千里馬(チョルリマ)などの新型のトラクター、コンバインを保有しているからで、郡内でも他の農場では畑起こしが進んでいないとのことだ。
北朝鮮の農業生産を高めるには、国境を開き、貿易を再開した上で、既に破綻した社会主義計画経済を農業生産にも当てはめ、営農資材の不足や今後起こりうる天変地異などを一切考慮していない穀物生産目標を勝手に決め、農場にノルマを割り当てるという、馬鹿げたシステムと決別し、農民の自主性に任せた農業を復活させることだろう。
(参考記事:無茶な穀物生産ノルマを押し付ける北朝鮮、農場からは心配の声)