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社会主義計画経済は、大規模な企業から小さな工場に至るまで、国が定めた計画量に従って生産し、国が定めた価格で販売するという、国が経済のすべてを司る仕組みだ。

様々な要因で変化する需給の調整を人間が行うことに限界があるため、完全な形で採用している国はもはや北朝鮮以外にはない。計画経済体制下では、工業製品の生産量のみならず、農業生産量も計画の対象となるが、気候や災害の影響は考慮されていない。計画と現実の乖離によるしわ寄せは、現場の農民に向かう。

今年1月の第8回党大会で金正恩総書記が提示した「国家経済発展5カ年計画」では、農業生産量にも定められているが、そのプレッシャーに苦しむ現場の声を、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のある協同農場の幹部によると、内閣の農業省は全国の協同農場に対して指示文を下し、「今年は死のうが生きようが(是が非でも)穀物を730万トン生産しなければならない」として、農場の耕作面積に合わせてどれほどの穀物が生産できるか執行計画を立てて報告せよとしている。

ノルマを達成するには、各農場が田圃1ヘクタール当たりコメ8トン以上、畑1ヘクタール当たりトウモロコシ10トン以上を生産しなければならないが、無理な計画だと幹部は語る。

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「ほとんどの農場の土地は、地力が大幅に落ちている上に、国から肥料が正常に供給されたとしても、中央が示した穀物(生産)のノルマは現実的な数字ではない」

昨年、北朝鮮の国営メディアが大々的に宣伝した平安南道(ピョンアンナムド)の順川(スンチョン)燐酸肥料工場だが、実際は設備も原料も搬入されておらず、肥料生産ができる状態ではないと伝えられている。

(参考記事:死亡説の金正恩「復活ショー」の知られざる舞台裏

また、生産計画は地理的条件への配慮が全くされていない。山がちな咸鏡北道では、農地も平地ではなく山を切り開いて造成された部分が多く、平地に比べて生産性が落ちる。それを考慮に入れず、耕作面積を単純に計算して、ノルマを課しているのだ。

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さらにコロナ鎖国により肥料生産量が例年にもまして減少し、トラクターなど農業機械を使おうにも燃料がなく、牛を動員するしかない状況だと幹部は嘆いた。

「中央は今年の肥料供給にはひと言も触れずに、自力更生の精神で農場ごとに代替肥料(堆肥)など代用肥料生産に力量を集中せよと強いるばかりだ」(幹部)

(参考記事:一人あたり500キロの人糞集めから始まる北朝鮮の新年

当然、こんな状況ではノルマ達成など絵に描いた餅。農場幹部や農民は、春の農作業が始まる前から不安でいっぱいだという。

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咸鏡北道の西隣、両江道(リャンガンド)の農業部門の幹部は「両江道は地理的に非常に寒い地域にあるので、植える作物のほとんどがジャガイモ」と述べた上で、中央からは1ヘクタールあたりジャガイモ40トン以上の生産が求められていると説明した。

しかし農場の幹部も、上部の行政機関に当たる両江道の農村経営委員会の幹部も、今のような条件でこんなノルマを達成するのは不可能だとよくわかっているため、心配な表情を浮かべているという。達成できなければ処罰の対象となるからだ。

農場幹部が処罰を免れるには、あたかもノルマを達成したかのように虚偽報告をするしかないが、翌年の農業生産計画はその水増しされた数字を元に策定されるため、計画と実際の乖離が増すばかりだ。

(参考記事:北朝鮮、計画経済と「虚偽報告」が引き起こす食糧難

農業省は、すべての農場に対して収穫の多い農場、作業班、分組、農場員を増やす方法でノルマ達成に力を尽くせ、農作業以外の作業に農場員を動員せずに、労働力すべてを農業に集中させよなどと指示しているが、この幹部は「そんなことが農場幹部の力だけでできると思っているのか」と反発した。

「当局は、何かに付けて政治行事だ、集まりだと言って農場員を動員する」
「農業というものは人の努力だけでできるものではなく、自然の気候条件などの支えが必要で、特に肥料や農機具などの営農資材は農作業に必須なのに、当局はそれについての言及はなく、無条件で穀物生産計画を下して、農場員にプレッシャーをかけている」(幹部)

(参考記事:農民も借金取りも途方に暮れる北朝鮮の農村の冬

韓国の農村振興庁は昨年末、2020年の北朝鮮の食糧作物の生産量が、前年比5.2%減少した440万トンだとの推定値を発表している。北朝鮮が目標とする730万トンからは大きくかけ離れている。

李仁栄(イ・イニョン)統一相は、北朝鮮で1年に必要となる食糧は500万トンから550万トンだが、毎年100万トンが不足して、昨年の災害により減産となった分を含めると、120〜130万トンの食糧が不足すると述べている。

(参考記事:北朝鮮、食糧120万トン以上が不足か…昨夏の災害影響