何度試みても失敗に終わってきた、北朝鮮国内での外貨使用禁止令と強制預金。当局はあの手この手でなんとか推し進めようとするが、そのたびに国民からの強い反発に遭い、ウヤムヤになってきた。それなのに、またもや失敗を繰り返そうとしているようだ。
両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、各地域の人民委員会(道庁)の財政部は住民に対して、保有している外貨の額を申告することと、外貨を銀行口座に貯金し、カードに移して使うことを指示した。
北朝鮮では、プリペイドの携帯電話の通話料金をキャッシュレス決済に使う手法が広く使われていたが、当局は昨年7月に使用を禁止。その代わりに「ウルリム(響き)2.0」というQRコード決済システムを同年11月に導入した。
手持ちの外貨を銀行口座に預金させ、それを決済システムと紐付けして使わせる仕組みだ。
(参考記事:北朝鮮が新キャッシュレス決済を導入、消費者の反応は今ひとつ)コロナ鎖国により深刻な外貨不足に苦しめられている当局は、国内に存在する莫大な額の「外貨タンス預金」の額を把握し、国庫に吸収するために、このようなシステムを開発した。しかし、大多数の国民から返ってきたのは冷淡な反応だった。そこで今回、強制力を伴った調査に乗り出したというわけだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面当局が、外貨の把握に力を入れるのは通貨政策や経済政策とも関係がある。自国通貨である北朝鮮ウォンではなく、米ドルや中国人民元が国内で使われる状況を放置し、北朝鮮ウォンの価値が下がれば、通貨政策を利用しての景気浮揚策や物価や為替レートの変化への対応が困難になり、国民生活に影響を及ぼす。それは体制の安定とも直結する。
当局は繰り返し、国内での外貨使用禁止令や外貨吸い上げのための政策を打ち出してきた。最近の例では、公債を発行し、外貨で購入させる計画をいったんは実行に移したものの、頓挫してしまった。
(参考記事:北朝鮮、財政難打開の秘策「公債発行」が中断)今回も、国民からさっそく強い反発の声が上がっている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「国庫の外貨保有高が減少したからと、住民の懐から吐き出させようとする浅知恵ではないかと不満を示す人が多い」(情報筋)
情報筋は「今回の指示がどうなるかは守らなければならない」とし、国民からの反発が強ければ、ウヤムヤになる可能性があるとの見方を示した。また、個人が市場や商店で外貨を使用することは禁止され、外貨使用が認められるのは外貨稼ぎ機関、外貨商店などに限られることになるだろうとしているが、これも先行きは不透明だ。
北朝鮮国民が、銀行への強制預金や外貨使用禁止令に強い抵抗を示すのは、2009年の貨幣改革(デノミネーション)で受けたトラウマがあまりにも強いからだろう。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面市場経済化がなし崩し的に進み、経済の主導権が民間に奪われることを嫌った金正日総書記は、デノミネーションを断行し、旧紙幣を銀行に預けさせ、新紙幣の引き出し上限に制限を設け、地下経済の根絶を図った。
財産のほとんどを国に奪われることとなった北朝鮮国民からは猛反発をくらい、ハイパーインフレが起きて経済は大混乱。自暴自棄になって暴動を起こしたり、脱北したりする人も相次ぐなどして、治安は極度に悪化した。
(参考記事:北朝鮮の銀行は信用ゼロ…無謀な貨幣改革がきっかけ)
人々は、北朝鮮ウォンと銀行を信用しなくなり、財産は外貨で両替して自宅で保有するのが当たり前になった。そんな状況は、小手先の外貨吸収策で打開できるものでは決してない。