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世界最長と言われる北朝鮮の兵役期間が短縮されたことは、デイリーNKでも既報の通りだ。とは言っても、男性は9〜10年から7〜8年、女性は6〜7年から5年。世界最長であることに変化はないが、実は女性に対する兵役は全面施行されているわけではなかった。

2015年から行われることになっていたが、様々な抵抗でうまく進まず、2019年4月からどうにか実施。2020年に入っても試験的実施に留まっていたが、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、この4月から本格実施に移行した。

(参考記事:北朝鮮、女性の兵役実施で高まる「性上納」被害のリスク

当局から、女性も軍に入隊して5年間の軍服務をすることについての指示が下され、高級中学校(高校)を卒業した女性のうち、大学に進学できなかった者や成分に問題がない者に対して、兵役が課されることになった。

(参考記事:【徹底解説】北朝鮮の身分制度「出身成分」「社会成分」「階層」

情報筋の話では、2019年の女性兵役実施の布告に対して、卒業を控えた娘を持つ親の間で激しい動揺が広がった。軍内では女性兵士に対する上官の「性上納」強要などの虐待が横行している。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

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それにもかかわらず正式な実行に踏み切った理由について、情報筋は兵力の不足を挙げた。

「毎年急激に減少する出産率のために、男性だけでは必要な兵力を充足するのは現実的に難しい」

兵力不足の背景にはもうひとつ、前述した兵役の短縮がある。だが、徴兵を担当する軍の隊列補充局の参謀長が兵役の短縮に反対意見を出すと、軍は参謀長を家族もろとも炭鉱に追放して、異論を抑え込んだ。

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そして結局、それで空いた穴を女性の兵役実施で埋めることにしたというわけだ。

(参考記事:金正恩命令に参謀が「死の抵抗」…北朝鮮軍を待つ最悪の結末

ところが、今度は民間部門から困惑の声が上がっている。

両江道(リャンガンド)の軍関連の情報筋によると、高卒女性の労働力に依存していた工場、企業所、協同農場に配属される人員が大幅に減ると見られている。中でも協同農場は、労働力の高齢化が進み、農作業に支障をきたすだろうと情報筋は見ている。

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住民の間では不満が渦巻いている。女性労働力が減少すれば、家頭女性(専業主婦)が工場や企業所に配属されることになるからだ。専業主婦とは言っても、家事労働に専念しているわけではなく、市場で商売をして現金収入を得て、一家を経済的に支える存在だ。

そんな彼女らが職場に配属されることになれば、コメ1キロにしかならない月給以外の現金収入が得られなくなる。貧困は購買力の低下に繋がり、市場やトンジュ(金主、新興富裕層)の社会的存在の低下をもたらす可能性がある。

兵力や労働力を補充するだけでなく、市場を統制下に置き、内閣主導の統制経済にしようとしている北朝鮮当局からすれば願ったり叶ったりかもしれないが、それはあくまでも当局の計画通りに進んだらという仮定の話。そもそも、いくら綿密に計画を立てても計画通りにならず破綻したのが、社会主義計画経済というシステムだ。

(参考記事:市場から「穀物供給」の主導権を奪還できない北朝鮮政府の苦悩

ちなみに当局は、女性の入隊のモチベーションを上げるために、兵役を終えたら朝鮮労働党や大学への推薦を優先的に行ったり、条件の良い職場に配属したりといった配慮を行うよう関係機関に指示している。