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住宅から日々の食料品、生活必需品に至るまで、ありとあらゆる物が無料または極めて廉価で配給されていたかつての北朝鮮。国民は決して豊かとは言えないが、安定した暮らしを営むことができた。

旧共産圏の下支えがあってこそ可能だったそんな配給システムだが、1980年代から徐々にほころびが生じ、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」の前後に崩壊。食糧供給の流れに大きな変化が生じた。

国民は、商品の調達を市場に頼るようになり、当局はその存在を黙認し、やがて公認した。それでも穀物だけは例外とされ、市場での売買が度々規制されたが、穀物流通の主導権はなし崩し的に当局から市場に移った。当局は2003年、主導権を取り戻すことを目指して食糧販売所を設置するも、失敗に終わっている。

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そして2021年。当局は再び穀物流通の主導権の回復を狙い、一部地域に国家食糧販売所を設置し、今年の太陽節(4月15日の金日成主席の生誕記念日)前に試験的にオープンさせる予定だった。しかし今回も、スタート前から躓いていると、デイリーNKの内部情報筋が伝えている。

当局は、コメやトウモロコシなどの穀物を国が直接買い取り、市場価格より国民に安く販売する目的で国家食糧販売所の試験運用を計画しているが、これについては当初から疑問視する声が上がっていた。

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穀物を安く販売するには、農民から安く買い取らなければならないが、軍に供給する軍糧米、平壌市民供給用の首都米などの買い取りを巡って、毎年のように「出せ」「損をするから出せない」という攻防戦が行われる有様。

そんな事情をよく知る地域の幹部は、難航が目に見えているそんな事業に、ハナから手を付けようとしないのだ。

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事業地域の選定が進まないことに業を煮やした党は「少なくとも各道、直轄市、特別市で2ヶ所ずつ、全国で26ヶ所を選定しなければならない」「試験地域をもっと探せ」と追加で指示を下した。

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また、選定が進まなければ「地域の商業部門の管理イルクン(幹部)の責任を問う」「地域の党幹部も監督責任を問い処罰の対象とする」と警告した。

コメ価格の安値安定は、経済政策に対する世論の支持の指標となる。そのため当局は心血を注いで準備したのに、計画倒れになりかねない状況に直面し、焦っているのだろう。

試験地域の選定が完了した地域でも、太陽節の後に事業の進行状況を報告し、批准を受ける必要あるため、食糧販売所のオープンは早くとも今月下旬になると見られる。

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朝鮮労働党経済部は、穀物の買い取り費用、需要、売り上げなどの指標で、事業の評価を毎月行い、運営方式を修正、保管し、常設化する方針とのことだ。

当局は税収の拡大を目標に、市場を含めた商業機関、工場、企業所などに対する統制を強めつつ、内閣の経済官僚が主導する計画経済とのハイブリッドな経済体制への移行を目指しているようで、今回の穀物流通の主導権回復もその一環と思われる。

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その一方で当局は、経済や経営の専門家ではない党幹部による工場、企業所への指導を強化する動きを見せており、最終的に目指す経済体制の全容は、まだ定かでない。

(参考記事:北朝鮮、党や軍所属の事業体を内閣に移管する事業に着手