北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞と言えば、金正恩総書記の動静を伝えるものや政治的行事、思想、工場でのノルマの超過達成と言った、やたらと長くくて無味乾燥な記事が多いが、趣向の異なる記事もたまに掲載される。そのひとつが料理に関するものだ。
料理コンクール、地方の名物料理、料理講座など様々だが、材料として頻繁に登場するもののひとつが「マンネギ」だ。化学調味料(うま味調味料)の北朝鮮式表現で、直訳すると「味出し」となる。
広範に使われるようになったきっかけは、日本の鈴木商店(後の味の素)が、朝鮮が日本の植民地支配下にあった時代、朝鮮語の新聞に頻繁に広告を出すなど大々的なマーケティングを仕掛けたことだと言われている。
北朝鮮での消費量は不明ながら、かなり頻繁に使われるようだ。北朝鮮の雑誌「人民教育」2007年2月号は、大量摂取は手の震えや動悸などを起こすリスクがあるとして、老人、子ども、妊婦に対して使い過ぎを諌める記事を掲載したほどだ。
(参考記事:「焼き肉、キムチ、チジミ」は3大嗜好料理…北朝鮮メディア)北朝鮮の市場でも、大量の化学調味料が売られているが、扱っていた商人が逮捕されたと、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。一体どういうことなのだろうか。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面逮捕されたのは清津(チョンジン)市の水南(スナム)市場の商人11人だ。
いずれも元々は、化学調味料、砂糖、胡椒など様々な調味料や香辛料を扱っていたが、状況が一変したのは昨年1月以降だ。新型コロナウイルスの国内流入を防ぐために国境が封鎖され、輸入品がいっさい入荷しなくなり、価格が高騰した。
地域は異なるが、首都・平壌郊外の平城(ピョンソン)市の玉田(オクチョン)総合市場では、昨年10月に1キロ4180北朝鮮ウォン(約67円)で売られていた砂糖が、今では3万1000北朝鮮ウォン(約496円)と約7倍に高騰していると、現地の情報筋が伝えている。中国製の化学調味料、大豆油、薬品、ミカン、バナナに加え、農薬、肥料などは見かけることすらなくなったという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面胡椒や砂糖などほぼ全量を輸入に頼っているものならともかく、化学調味料は北朝鮮国内でも製造、販売されている。清津には入荷するほどの生産量がなかったのか、原材料を輸入に頼っているため、国内生産ができなくなったのか不明だが、いずれにせよ清津の市場の商人たちは、中国製の化学調味料を扱っていたようだ。
(参考記事:地方の零細商人を踏み潰して荒稼ぎする平壌の国営企業)追い込まれた11人は、肥料、農薬、ビニール膜などの販売を始めた。国境貿易が再開するという噂が出ては消え、出ては消えを繰り返し、見通しが立たない中で、農繁期を控え売れ筋の営農資材を扱い始めたのだが、これさえも仕入れが難しく、11人は密輸された商品を扱っていた。
輸入された商品は消毒された上で、15日経ってから国内搬入が認められるが、その過程を経ていない密輸品を扱うのは犯罪行為だ。11人は市場に出ず、隠れて販売していたが、その話が市場管理所のイルクン(幹部)の耳に入った。彼らが市場に出てこないことで、得られる市場管理費が減ったことに不満を抱き、安全員(警察官)に通報した。
(参考記事:北朝鮮の輸入品消毒施設が完成間近、貿易を一部再開か)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
3月11日に逮捕された11人は、貿易関係者とグルになって2月末に中国から清津港を通じて営農資材を取り寄せたと陳述した。
安全部が、防疫規定を守らずに密輸、販売された物品が問題を引き起こす可能性があると見て、国家貿易措置違反で11人を厳罰に処する方針だという。そう言っても、情報筋の予想は2年程度の労働鍛錬刑(懲役刑)。密輸で処刑される人が相次いでいることを考えると、比較的軽めの処罰と言えよう。
(参考記事:「反逆者の末路を見ておけ」金正恩、軍将校ら11人を銃殺)