北朝鮮は昨年1月、コロナ対策として国境を封鎖することを宣言し、自国民、外国人問わず、外国からの入国を一切禁じた。一方で出国は必ずしも禁じられていない。
ロシアのアレクサンドル・マツェゴラ駐北朝鮮大使は、インターファクス通信とのインタビューで、平壌駐在の大使館や国際機関の職員の多くが昨年撤収したと述べている。また、生活苦に陥った多くの北朝鮮在住華僑が出国を認められ、中国に向かった。
(参考記事:駐北朝鮮ロシア大使、コロナ鎖国下での生活を語る)
一方の北朝鮮国民は、コロナ以前から出国が非常に難しく、親戚訪問や留学など特別な理由がない限りは出国に必要なビザの取得が困難だった。そんな状況でも、多くの北朝鮮国民が、ビザを得て出国している。
米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、ロシア内務省の資料を引用し、2020年にロシア入国ビザを取得した北朝鮮国民は3632人に達したが、前年比で91%減少したと報じた。その内訳は、学生ビザが2609人、その他のビザ708人、観光ビザが256人などとなっているが、労働ビザ取得者の欄には何も記載されていない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面国連安全保障理事会が採択した対北朝鮮制裁決議で、国連加盟国は北朝鮮国民の新規受け入れを禁じられ、2019年末までに自国内の北朝鮮労働者をすべて送り返すことを義務付けられた。そのため、労働ビザが発行されないのは当然のことだ。しかし、昨年4月に公表された対北朝鮮制裁委員会の報告書は、ロシアが制裁を回避するために、労働ビザではなく観光や学生ビザを労働者に発給していると指摘している。
サンクト・ペテルブルグの高麗人(朝鮮系ロシア人)の説明によると、その手口は次のようなものだ。
北朝鮮労働者は学生ビザや研修ビザを取得し、今年初めにいくつもの小さなグループに分かれて、平壌発ウラジオストク行きの高麗航空便でロシアに入国。その後で、それぞれの労働現場に向かうという流れだ。
(参考記事:新型コロナも制裁も無視して進む北朝鮮労働者の再派遣)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
取締官がやって来た場合には、自分たちは留学生で休みの期間を利用してバイトをしているのであって、不法滞在者ではないと言ってごまかす。しかし、モスクワ郊外の建設現場では今月、警察の抜き打ちの検査で、学生ビザを所持していた北朝鮮人7人が、どこの大学に通っているかという基本的な質問にも答えられず、不法滞在者とみなされ逮捕された。
一方、ウラジオストクでは、北朝鮮から派遣された労働者が脱北を図る事件が起き、北朝鮮当局が懸賞金をかけて捜索に躍起になっていると、別の高麗人情報筋が伝えている。
各地の建設現場では昨年末に脱北を図る労働者が相次ぎ、ハバロフスクだけでも10人に及んだ。その中には労働者を管理する立場だった幹部もいる。彼らを見つけて通報すれば、北朝鮮労働者のロシアでの年収に相当する1万ドル(約105万円)という高額の懸賞金がもらえるとの話が、ハバロフスク、ナホトカ、ウスリースクの高麗人コミュニティで広がっているとのことだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面一般労働者に次いで幹部まで逃亡を図ったことと、高額の懸賞金がかけられた理由について情報筋はこう説明する。
「ロシアの建設現場で労働者の脱北事件が発生すれば、彼らを管理、監督していた幹部は本国に召喚され、粛清されることが火を見るより明らかなので、脱北せざるを得ない。会社からすると、労働者の脱北についで幹部にまで脱北され、厳罰を恐れて、党資金(上納金)の(ノルマ)未達成になってでも、高額の懸賞金をかけて彼らを逮捕しようと全力を尽くしている」
外出が厳しく制限されている中国に派遣された労働者と異なり、ロシアに派遣された労働者は、相対的に自由な行動が許され、積極的にバイトやダブルワークを行ってきた。その一方で上納金の取り立てが厳しく、悲劇的な結末を迎えることもしばしば発生していた。
(参考記事:ロシアで北朝鮮労働者が自殺…制裁影響、先月に続き)そんな状況に耐えかねて逃げ出す人も相次ぎ、その数は数百人に及ぶと言われている。ロシア国内の北朝鮮から遠く離れた地域で働き続ける人もいれば、難民地位を得て第三国への移住を果たす人もいる。
(参考記事:苦節20年、ようやく幕が下りた「ある脱北者の流浪物語」)