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韓国の消防職員の数は2019年の時点で5万6647人。韓国消防庁は、2017年から5年計画で2万人増員する計画を進めており、2022年には消防職員1人が担う人口は768人となり、日本の779人とほぼ同じレベルとなる。

韓国政府が災害インフラ増強や人員増員に力を入れているのは、事故や災害への適切な対応、国民の生命と財産を守る姿勢のアピールとなり、政権への評価につながるからだ。これは韓国以外の国でも同じだ。

一方の北朝鮮だが、消防職員の数は3〜4000人程度と言われており、火災が起きてもまともな対処ができないことも多い。

昨年8月、両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)で起きた大規模火災では、9人が死亡、30人が負傷したが、消防車が出動しなかったことで鎮火が遅れた。当初は責任逃れに汲々としていたが、世論が悪化し、人民委員長(市長)、安全部長(警察署長)が被害者に対して謝罪するという異例の事態となった。

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今年に入り、恵山ではまた大規模火災が起きたが、その対応をめぐり再び市民の不満が高まっている。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、今月7日、恵山(ヘサン)市内の松峯洞(ソンボンドン)にある第2人民病院で火災が発生した。幸いにして死者も負傷者も出なかったが、医療機器のほとんどが燃えてしまった。消防車が出動したか否かは不明だ。

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当局は、恵山を含めた国境地域に対して、朝鮮労働党第8回大会の開催期間を含めて今月15日まで(後に今月末までに変更)特別警戒期間を宣言し、工場、企業所、機関の従業員などを動員して、警備を強化していた。

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そんな最中に起きた今回の火災で、市内は大騒ぎとなった。両江道安全局(県警本部)は人員を総動員して捜査に乗り出した。その結果、普段は供給が途絶えがちながら党大会の期間中には供給されていた電気が、病院の当直担当者の何らかの不注意で事故につながり、火災が起きたとわかった。

ところが、安全局の説明は全く違うものだった。

「内部に潜む不純分子の連中が故意で火災を起こし、党大会を破綻させようとした」

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火事が起きたくらいで党大会が破綻するわけがないが、重要な政治イベントの期間中に事件・事故が起きるのを何より忌み嫌う当局は、党大会と火災を結びつけた上で、国内の引き締めのためのネタに利用しようという目論見なのだろう。

ただ、北朝鮮の人々は、このようなカビの生えたようなプロパガンダをあまり信じないと言われている。

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さて、燃えてしまった病院だが、その復旧をめぐり、ひと悶着起きている。

現地当局は、病院の復旧に住民を動員し、金品を供出させよとの指示を下したのだ。特別警戒期間中に起きた火災だけあり、早期に収拾を図らなければ、中央から政治的な「火の粉」が飛んで来くるかもしれないとの判断からだろう。

しかし経済制裁・災害・コロナ、そして封鎖令(ロックダウン)の四重苦に苦しめられてきた恵山市民は、日々生き抜くだけで精一杯なのに、そんなカネがどこにあるのかと呆れ返っているとのことだ。

また、金正恩総書記は12日に閉幕した朝鮮労働党第8回大会の結語で次のように述べている。

全党的、全国家的、全人民的に強力な教育と規律を先行させて、社会生活の各分野で現れているあらゆる反社会主義的・非社会主義的傾向、権力乱用と官僚主義、不正・腐敗、税金外の負担などあらゆる犯罪行為を断固阻止し、統制しなければなりません。

(参考記事:経済を最優先、核戦略では妥協せず…金正恩氏、党大会で結語

金正恩氏が「税金外の負担を断固阻止せよ」と厳命したのに、その舌の根も乾かぬうちに、地方政府はその命令を破ろうとしているのだ。法の施行や命令の下達の直後に、見せしめとして違反者を厳罰するのが北朝鮮がよく使う手法であることを考えると、今回の恵山市当局のやり方は非常にリスキーと言えるかもしれない。