ロシアの新型コロナウイルス感染者は、累計で213万人を超えており、世界で5番目に多い。一方、人口185万人の沿海州では、今月25日の時点で累計の感染者数が2万736人、100万人あたりの感染者数も9000人程度で、他の地方と比べればかなり低い。
それでも沿海州の中心都市、ウラジオストクに派遣されている北朝鮮労働者や貿易関係者の間でも、新型コロナウイルスに感染する事例が相次ぎ、死者も出ている。
現地のデイリーNK情報筋によると、彼らは感染予防と治療に大きな不安を抱えている。その理由は「不法滞在」だ。
国連安全保障理事会は2017年の制裁決議で、国連加盟国に対し、自国内にいる北朝鮮の労働者を2019年末までに出国させることを義務付け、かつては数万人単位でいた北朝鮮労働者も出国させられたが、それ以降も密かに滞在を続ける者が少なからずいる。不法滞在の彼らは、検査も治療も施設での隔離措置も受けられないのだ。
3人以上が集団で発熱、呼吸困難など典型的なコロナの症状を見せ、死亡する事例が相次ぎ、労働者の間には恐怖が広がっている。北朝鮮当局は、ロシア国内にいる自国民の感染者、死亡者について報告を受けているが、帰国は認めていない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「当局に報告したが、帰国せずに現地で耐えろとの指示が下された」(情報筋)
北朝鮮にウイルスを持って帰国されてはかなわないということだ。「悪性ウイルス(コロナ)を祖国で広げないことが愛国の道」というのが、当局の言い訳だ。
ロシアと北朝鮮は国境を接しているため、国境のフェンスを乗り越えて密入国することもできなくはないが、もしバレた場合の結果は悲惨だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面今年8月、脱北して中国にいた女性3人が、両江道(リャンガンド)を通じて密入国しようとして逮捕された。うち1人が中国で新型コロナウイルスの陽性を判定を受けていたことから、地域一帯に封鎖令(ロックダウン)が下された。その後の処遇について伝えられていないが、罪を犯した上に、治療のしようがないため、処刑されるかもしれないと言われている。
(参考記事:「死ぬなら故郷で」…北朝鮮「中国で陽性判定」の女性を銃殺か)
運良く生き残ったとしても、北朝鮮国内には基本的な医薬品すら不足しており、隔離施設の状況も非常に劣悪だ。
(参考記事:3割が生きて出られない…北朝鮮コロナ隔離施設の劣悪な実態)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
亡くなった場合でも、北朝鮮当局は通常通りに葬ることを認めない。また、遺骨が国内にいる遺骨のもとに返された事例は確認されていない。結局、遺体を荼毘に付して、遺骨をその周辺に散骨することで弔うしかないのが実情だ。
ロシアに居る北朝鮮労働者の間でコロナが蔓延する事情について、韓国・東亜大学の姜東完(カン・ドンワン)教授は次のように説明した。
「ロシア国内の北朝鮮労働者のほとんどは、一つの職場で働くのではなく、各地の現場を転々としている。また彼らは10人以上で集団生活しているため、感染症に脆弱だ」
中国で働く北朝鮮労働者は、工場内の寮で起居し、1ヶ所の工場だけで働き、外出は制限されている。一方で、ロシアで働く北朝鮮労働者は集団で暮らしていても、仕事は別々に行うことが多く、外出も比較的自由に行える。中国ではアパレル、水産加工などの工場で働くケースが多い一方で、ロシアでは住宅の建築、リモデリングなど建設や内装工として働くケースが多く、ほかにアルバイトをすることもある。
あの家、この工場と渡り歩いているうちにコロナに感染、それを寄宿舎に持ち帰り、集団感染を起こすという図式だ。
(参考記事:北朝鮮労働者を売りにする怪しいロシアの建設会社)彼らはコロナ禍による経済の低迷で、当局から課せられた外貨稼ぎのノルマを達成できないのはもちろんのこと、非常に厳しい暮らしを強いられている。
「寒さ、空腹、ウイルスに対する恐怖と毎日闘っている」(情報筋)